なぜ、日本人に武士道は伝わらないのか 第7回

2020/12/23

P09 school bushido_745_2世界中で注目されている
日本人特有の性格や行動の数々。

それらの由来は武士道精神にあった。

しかし、 武士道精神が何たるかが驚くほど
浸透していないのが日本の現状である。

筆者が外国生活を通して感じた
日本人の違和感を新渡戸稲造先生の 「武士道」 や
時事ニュースや関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 第7回 武士たる話し方 

 

 昔の人の名言や事跡などを聞き知っておくのも、昔の人の知恵に任せて、私心を生じさせまいとするためである。私情を捨てて、昔の人の名言を頼りにし、他人と相談するならば外れなく、悪事もあるはずがない。
(講談社学術文庫「新校訂全訳注葉隠(上)」夜陰の閑談より)

 

自分の欠点を知る

 皆さんは自分の欠点をすぐに挙げることができるだろうか?私は30歳を過ぎて、ようやく自分の欠点を認め、直そうとする努力ができるようになってきた。自分の欠点についてはもう中学生くらいの頃から薄々感づいてはいたのだが、やはりそれを認め、改善するとなると精神的な成長が必要で、その精神的な成長がここ1、2年で始まったのである。それはおそらく娘が誕生したことによる責任感と、香港での生活が少し安定してきたという心の余裕が出てきた影響だろう。

 で、そんなてめえの欠点が何かというと「他人の話やアドバイスに耳を傾けない」という点である。

 この私の欠点、実は私に限らず多くの人に当てはまるのではと最近ふと思うのだが、皆さん自身または身の周りの人たちにもいないだろうか…「コイツ、他人(ひと)の話聞いてねえな」って奴が

 

他人の話を聞かない人たちの行く末

 他の人の意見を聞かない人たちは物事を自分に利益が出るように考えてしまい、その結果失敗に終わる、というケースが多いように感じる。何か課題や問題があると、自分の過去の経験を頼りに、自分が絶対に損をしないような答えが出るような数値や理由を付けたしながら、結局のところ自分に都合の良い結論に至るのである。

 

 結局、私心を根底において考えをめぐらし、全て歪んだよこしまな知恵の働きになってしまうので、悪事となることばかりだ。
(「葉隠(上)」夜陰の閑談より)

 

 日本人であろうと香港人であろうと、子どもであろうと大人であろうと何のルールや指示もなく好き勝手に計算をさせるとたいてい自分に利益が出るような結論を導き出してしまうのは人間の悲しい性であり、このことは何も今に始まったことではない。1700年頃に書かれた武士道指南書の葉隠でもこのように述べられているのだから、たいてい悪事(犯罪や裏切りなど)を働くのは他人の意見を聞かず私心や私情のもとで物事を考えている人だというのは300年前から変わっていないということである

 

相手が自分の話を聞いてくれないのは自分の責任

 しかし、他人の話を聞かないという態度は、その人の性格に起因するものなので、そのような人たちを周りの意見に耳を傾けるよう改心させることは簡単ではない。他人の性格はそう簡単には変わらないし、変えることもできない。となると、聞き手がダメなら話し手が話し方を変えるしかない。話し方はテクニックで如何様にも変幻自在だ。

 

 異見というのは、まずその人が受けいれるか受けいれないかの気性をよく見分け、親しくなって、これらの言葉を前々から信じるようにしてから好みの方面の話などからはじめて、言い方をいろいろ工夫する。そして状況を鑑みて、手紙であったり、別れ際などの時であったりを選んで、まずは自分についての悪いところを言いだして、言わなくても思い当たるようにするか、まず良いところを褒め立て、気分を引き立てて、工夫に心を砕いて、喉が渇いた時に水を飲むように納得させ、欠点を直すのが異見というものなのだ。思いのほかやりにくいものである。(中略)恥をかかせてしまっては、欠点など直せるはずがない。
(「葉隠(上)」夜陰の閑談より)

 

 本を読む、他人の話を聞くことが自身の教養や知識を高めてくれることは間違いないが、それよりも私情を挟まずに物事を考えることを促してくれるため、総じて他人の意見を聞ける人たちは成功する可能性が高くなる。また自分が他人に異論を唱えるときは、相手の気持ちを考えて言葉を選ぶことが最も大切で、それは簡単ではない。300年前の日本の姿を見ながらこのような考えや認識を見出していた武士道の奥深さには改めて驚きだが、同時にその豪傑肌なイメージとは裏腹に、武士には他人の異見に素直に耳を傾けられる懐の深さと、他人の気持ちを読み取りながら異見ができる繊細さがなければ務まらなかったことがうかがえる。

 このような武士の会話術を心得るには相当な訓練が必要だが、このような話し方を日々心掛けるだけでも私たちの生活に大いに役立つことは間違いない

 


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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