尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.35

2020/12/30

独禁当局の姿勢が「容認」から「締め付け」へ

 

 国家市場監督管理総局は12月14日、アリババ傘下の「アリババ投資」、テンセント傘下でコンテンツ配信サービスを手掛ける「閲文集団」、物流大手順豊エクスプレス傘下でスマート宅配ロッカーを展開する「豊巣網絡技術」に対して独占禁止法(独禁法)に違反しているとして、それぞれ罰金(制裁金)50万元を課す決定を下した。

 50万元という罰金は3社の企業体力を考えると微々たる額だが、独禁法第48条が規定する罰金の上限額でもある。3社とも処分を受け入れ、不服申立てを行わない模様だ。当局が過去の違法行為を洗い出し、後出しでIT企業に行政処分を出したことからすると、「IT企業も独禁法の適用を受ける」という強いメッセージを与えることが目的だと考えられる。

 独禁法が施行された2008年、アリババやテンセントなどIT企業は今ほどの市場支配力を有していなかったため、独禁法はインターネットビジネス分野をカバーしなかった。

 しかし、AIとビッグデータの時代に突入し、経済活動のプラットフォーム依存は強まる一方である。また、プラットフォーマー同士の競争が激しくなり、優越的地位を利用し取引先や消費者をグレーな手法で囲い込む行為も後を絶たない。

 消費者も、知らないうちにプラットフォーマーに操られている。中国のECサイトはAIとビッグデータを利用して、同じ商品の価格を消費者ごとに変えることもできる。より安い価格を提示し新規顧客を獲得するためのやり方には、消費者からは常に不満が出ている。

 上記の処分に対して、中国国内では、「政府がやっとネット業界にもメスを入れた」、「大手IT企業は一人でボロ儲けしているから、もっと早く罰するべきだった」などと、これを歓迎する声が多い。

 一方で、「VIEスキーム*を用いた企業の経営者集中案件も独禁法の審査範囲に属されるということは、広くVIEスキームを活用しているIT業界及びその海外投資者のVIEスキームの合法性に対する懸念を払拭してくれた」と評価する声がある。また、「VIEスキームに触れていない外商投資法と独禁法も、グレーゾーンのVIEスキームをカバーする」ことへのシグナルと受け止めることもできる。この点については、国家市場監督管理総局が11月に公表した「プラットフォーマーに対する反独占ガイドライン」意見徴収稿の第18条に関連規定がある。

 今回の処分事例から、中国をデジタル大国に押し上げた立役者であるメガIT企業に対しても、当局の姿勢が「容認」から「締め付け」に変化しているといえる。

 

* VIEスキームとは、variable interest entitiesの略であり、契約支配型ストラクチャーとも呼ばれる。本稿でいうVIEスキームは、外国資本の進出が禁止又は制限されている中国の産業分野(例えばIT業界、教育分野など)への投資手段として、かかる規制回避のために使用されているストラクチャーのことを指す。

 


zhuojian

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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶応義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害

 

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