目から鱗の中国法律事情 Vol.52

2021/02/10

中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

 前回、詐害行為取消権の意味を説明しました。今回は、中国の詐害行為取消権を具体的に見ていきましょう。

 中国法律事情52

 

契約法(合同法)時代の詐害行為取消権

 2021年1月1日の中国民法施行より前は、中国では契約法(中国語原文は「合同法」)第74条~第75条に詐害行為取消権が規定されていました。その条文は以下の通りでした。

 契約法第74条

 債務者が期日が到来した債権を放棄もしくは財産を無償で放棄し、債権者に損害を与えた場合、債権者は人民法院に債務者の行動を取消すよう請求することができる。債務者が明らかに不当な低価格で財産を譲渡し、債権者に損害を与え、譲受人もその状況を知っている場合、債権者は人民法院に債務者の行動の取消しを請求することもできる。 取消権を行使できる範囲は、債権者の債権の範囲に限るものとする。債権者が取消権の行使のために要する費用は、債務者の負担とする。

 第75条

 取消権は、債権者が取消の原因を知った、または知っていたはずの日から1年以内に行使しなければならない。債務者の行為から5年以内に取消権が行使されない場合も取消権は消滅するものとする。

このように、契約法上の詐害行為取消権は非常に簡素な規定でした。

 

中国民法における詐害行為取消権

 2021年1月1日から施行された中国民法では、第538条~第542条に詐害行為取消権が規定されました。その規定は以下の通りです。

 中国民法第538条

 債務者が、その債権を放棄、債権の担保を放棄、財産を無償譲渡などの方法で財産権を無償で処分するもしくは債権の履行期間を悪意をもって延長し、債権者の債権の実現に影響を与える場合、債権者はその債務者の行為を取消すよう人民法院に請求することができる。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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