僕の香妻交際日記 第60回 香港は本日も晴れ、異常なし

2021/04/07

P16 HK Wife_727

 

 

暇だ。

今、私はオフィスにいる。

当たり前だ、今日は水曜日である、しかもちょうど昼の12時、一週間のちょうど折り返し地点だ。

それにしても、今日のオフィスはやたら静かだ。

私の机はオフィスの一番奥、窓に面していて、私はいつも窓とその向こう側に見える向かいのビルを見ながら作業をしているので、意識して振り向かない限り私の背後に広がるオフィスの風景が全く分からない。

まさに窓際係長だ。

 

さすがに今日のオフィスの静けさは異常だと心配になったので、久々に振り返ってみる。遠くに座っているデザイナーの頭が見えるくらいで、あとはもぬけの殻だ。

みんなどこへ行ったのか。ちょっと気になりはしたが、とりあえずデザイナーの頭は見えたのと、立ってみんなが何をしているか探りに行くのも面倒なので、また窓の方へ向き直し、パソコンの画面に精神を集中させる。

私が今やるべきことは香妻日記の原稿を書くことだ。

 

香妻日記の原稿を書くことは私の香港生活において数少ない日本語に触れられる機会なので、私にとってはとても大事な習慣となっている。

そうは言っても仕事とは全く関係がないことなので勤務中に原稿を書いて大丈夫なのかと疑問に思う人もいるかもしれない。

まず第一に、こうやって私が勤務時間中に香妻日記の原稿を日本語でタイプしていても社長も同僚も日本語が読めないから、私が何をそんなに一生懸命になってワードに打ち込んでいるのかが分からない。

そもそも、ここは香港のローカル企業なので、私以外の人間、社長も同僚も掃除のおばちゃんも全員香港人。

よっぽどの用がない限り日本人の広東語の分からない私に声を掛けてこない。ということで、もちろん、勤務中に原稿を書いているなんて社長にバレたら大変ではあるが、社長は日本語が分からないからいいのだ。

 

とこんなことを書いていたら、ちょうど今、社長が出社した。

いつも通り、軽く会釈をお互いにして、社長は社長室にカバンを置くと、そそくさと会議室の方へ去っていった。

なぜ私が社長のそんな一挙手一投足を実況できるのかというと、社長室は私の左手に位置しており、嫌でも社長の足音が聞こえてくるし、社長室のドアが開いていれば中で何をしているのかも見える。

一方で、このように私が社長の動向を見て実況できるように、社長も社長室に入るときに私のパソコンのディスプレイを見ることができる。

さっきも見えていたはずだ、私がワードに何やら日本語でタイピングしている姿を。でもそんなの関係ねえ。

なぜなら、今日が香妻日記の原稿の締め切りだからだ。いつもお世話になっているぽけっとページの石川さんが私の原稿を待っているのだ。

 

ただ、一応、もし社長に「お前何書いてるんや?」って質問されたらどうするか、ちょっと考えてみる…

いや、絶対にそんな質問してこないから、大丈夫。

うちの社長はやることやっていればあとは出社時間に遅刻しようと、ランチが1時間を超えてしまっても、こうやって私が日本語でカチカチ一生懸命原稿を書いていようと気にしない。

 

ちなみに私はこの会社で新規事業開発部という部署に配属されている。

開発部とか言いながらこの部署には私一人しかいない。

この部署は社長直属の部署で私は毎日社長に事業の進捗を直接ワッツアップで報告している。

ワッツアップ?と思った人もいるかもしれない。

少し補足すると、社長はワッツアップの活用を推奨していて、この会社では会議はほとんど開かずできる限りの議論はワッツアップで済ませる。

各部署、案件用にグループを作成して、そこで議論が行われるため、すべてのグループに登録されている社長のアカウントには未読メッセージが300件とか表示されているときがあるから、さすがにメッセージを見落とされているときもあるのだが、それでもこのやり方は非常に効率的で議論の記録も残るので私も気に入っている。

 

12時半になった。

ランチの時間である。

今日の午前中は何もこの会社の業績に貢献することができなかった。反省だ。

とはいえ午後で挽回できる見込みも今のところなし。どうする。

まあ、こういう日もあるでしょ、人間だもの。

 

みつを

 


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴7年。元日本語講師。元学習塾塾長。現在香港企業窓際マネージャー。柔道三段。妻は香港人。娘はハーフ。猫は香港仔出身。愛読書は武士道。

 

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