2分で読める武士道　第18回

2021/11/24

2分で読める武士道

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

　第18回新庄ビッグボスの下で選手たちが心に構えておくべきこと

　メジャーリーグもオフシーズンに入り、大谷ロスに陥っていた日本国民に朗報が入った。それが新庄ビッグボスの日本ハム監督就任だ。それからというものスポーツニュースは連日ビッグボスの話題で埋め尽くされ、日本シリーズの行方なんてなんのその状態になっている。常識破りの人選とはいえ、ここまで監督が紙面の一面を乗っ取ってしまうのもさすが新庄劇場だが、実際に野球をするのは選手たちである。かれらの心構えというものがチームのパフォーマンスの良しあしに大きく関わってくることは言うまでもない。

　武士の要諦を順序だてて言うなら、まずは身命をすっぱりと主君に差し上げるのが根本である。そうした上で、次に何をするかといえば、内には智仁勇を備えることである。（中略）智というのは、人に相談するだけのことである。限りのない智恵である。仁とは、人のためになることである。自分と人とを比べて、人が良くなるようにするまでである。勇は歯がみである。あとさきのことを考えず、歯がみして踏み破るまでである。（聞書第一 p.299）

　選手がまず第一にしなければならないことは、リーダーに自らの命を託すということ。これができなければそのチームに明るい未来など望めない。とはいえここはリーダーの人望も大事になってくるので、組織幹部はリーダーの人選というものには慎重にならなければならない。その点、新庄ビッグボス採用は正解だったのかもしれない。独特の会話術でキャンプ初日から早速選手たちの信頼をグッと掴んで見せた。きっと選手たちもビッグボスにならすべてを賭けてもいいと思っているに違いない。監督のために戦うという気持ちが芽生えることで選手たちも自然と個人やチームが成長するためにどうしたらいいかを自分で考えるようになるし、お互いに相談もするようになる。チームのためと思えば我慢もできるようになる。このことはスポーツに限ったことではないので、日本の政府トップの人たちにもなぜ国民がついてこないのか、どうやったら国民の信頼を得られるかというところを各業界の偉大なリーダーたちから学んでほしいものである。

　さて、外には風体（姿、振舞）、口上（物言い）、手跡（字の美しさ）である。これはどれも日常のことであるから、普段の稽古で身についていくものである。（聞書第一 p.299）

　新庄ビッグボスが未完の大器清宮選手に対して「ダイエットしなさい。痩せた方がモテるよ。」とアドバイスをしたという記事があったが、モテるモテないは別として容姿というものはやはり大事である。大谷選手が二刀流に成功した要因の一つが肉体改造であったし、一方で松坂大輔、サッカー元ブラジル代表の怪物ロナウドのような選手たちは体重管理ができずにパフォーマンスを落としていったという例もたくさんある。ビッグボスも言っていたがダイエットは基本的には辛いので、その過程で食事や体の知識も学べるだけでなく、精神的にも強くなれる。アスリートならもちろんパフォーマンスも向上する。容姿が全てではないが、容姿が変わることで変われることもあるのは間違いない。

　基本の心構えは、しずかに強みあるように、と理解しておけばよい。以上が身についたならば、佐賀藩についての学びを心がけ、その後、気晴らしに諸芸能も習えばよい。泰公などはたやすいことである。今どきの少し御用に立つ人物を見てみると、せいぜい外の三カ条（風体・口上・手跡）が身についているという程度である。（聞書第一 p.299）

　武士道では武士の心構えとして平静を保つことが最も重要であるということが何度も言及されている。物事がうまくいっていない時、突然のアクシデントに見舞われたときにこそリーダー、選手の本当の胆力というものが垣間見えるものだ。

　新庄ビッグボスは日ハム選手時代には派手なパフォーマンスや言動で話題を呼んだが、それらのパフォーマンスや一つ一つの言葉は成績が低迷してチーム状態が良くない時に何とか士気を上げようとして考案したものだったという。このように選手時代に己の知恵と仁義と勇気をチームのために尽くした人間が監督となってチームに戻ってきたのだから、周囲が期待してしまうのも無理はない。果たして選手たちはこのビッグボスの下で自分たちの智仁勇を発揮できるのかどうか、一年後の彼らの姿にも目が離せない。

引用：講談社学術文庫「葉隠（上）」