広東人にとって涼茶とは?

2022/04/25

 

3「涼茶」―自論苦吃―自ら選んで苦さを求める
 「上海人の血にはコーヒーが、東北人には酒が、四川の人には唐辛子が、ならば広東人の血には涼茶が流れている」とはよく言われる言葉。蒸し暑い夏、徹夜や残業でジャンクフードをたらふく食べた時、伝統的な涼茶を飲むことほど広東人を安心させるものはないらしい。

11広東人にとっての「命の水」
 涼茶を飲むとまずは口いっぱいに苦みがやってくる。しびれる感覚に襲われるかもしれないがそれもつかの間、逆に甘く感じるようになるから不思議。そしてすぐ元気になるという、広東人にとっては「命の水」なのだ。
街中にある涼茶屋は、そんな広東人の生活の中で、なくてはならない味覚の記憶を呼び覚ます憩いの場所でもある。

涼茶と気候の関係
 涼茶は伝統的な漢方を煎じた飲み物。広東涼茶は中国涼茶文化の代表と言えるだろう。涼茶は実は冷たくもないしお茶でもない。広東、香港、マカオ地区でよく飲用されるのには、この土地の気候と水土にその所以があった。
この土地の言い伝えでは、高温多湿な空気にあたってしまうと当時の医療では不治の病と言われていた。漢武帝がこの地を遠征した際に、淮南王劉安は「南方は暑くて湿気がすごい。蛇や虫も多く、病気の多いところだ。2、3割の兵は戦で倒れるのでなく、病気で死んでいる」と忠告をしたそうだ。
92良薬は口に苦しとはまさに
 さて、話を涼茶の独特の苦さに戻そう。なぜこんなに苦いのにこれほどまでに愛され続けるのか? 東洋医学では広東地区のこの灼熱の熱さと多湿の気候は、人体の調節限度を超えているという。それゆえに胃もたれや食欲不振、疲れやすさなどの倦怠感が出る人が多い。西暦306年、東普の医薬家、葛洪南は周りで見られていたこの不治の病の研究をすべく、体の熱を下げる漢方薬に行きついた。さまざまな配合がなされ試行錯誤が重ねられ、涼茶が誕生したというわけだ。孔子の名言「良薬口に苦し」は日本でも使われることわざだが、まさにそれを体現しているのがこの涼茶であろう。涼茶の「体から熱や湿気を取り除く」効能は実は熱い夏だけではない。広東人は風邪のひき始めや調子が悪い時にも、医者に行くのではなく涼茶屋に走るという。
涼茶を作る工程で大事なのは火加減と時間だ。5~6時間は煮だす必要があり、ひとときも離れてはいけないらしい。常に竹の棒でかき混ぜる作業が必要だからだ。なるほど、丹念に煮だされ、均一に抽出されたその濃い薬水を冷まして涼茶が完成する。

無形文化遺産の仲間入り
 統計によると、2006年の全世界での涼茶販売量は、中国でのコカ・コーラ消費量を上まった。時を同じくして国家非物質文化遺産に登録され、涼茶の悠久の歴史が正真正銘の中国文化のひとつとなったのだ。
広東に来たならば、街中の涼茶屋を訪れてほしい。一杯の伝統的な広東涼茶をオーダーしよう。老板に体の不調を伝えれば改善が期待できるおすすめの一杯を出してもらえるに違いない。それはこの地方で愛され続ける「苦い一口」となるだろう。

7

Pocket
LINEで送る