尹弁護士が解説！中国法務速報 Vol.64

2022/06/01

営業秘密の漏洩と競業ビジネスの防止方法②

秘密保持条項
使用者は、労働者との間で、労働契約または秘密保持契約において、使用者の商業上の秘密（以下「営業秘密」といいます）の保持及び知的財産権に関する秘密保持事項について約定することができます（労働契約法第23条第1項）。
労働者が秘密を保持すべき内容について、関連する契約で明確に定めておくことの重要性は言うまでもありません。実務上も、関連する契約において接触可能な使用者のほぼすべての情報を秘密保持の対象とすることで、実質的に秘密保持の対象を無制限に拡大する傾向がありますが、これによって使用者の権利が必ず守られるとは限りません。
というのは、使用者が関連する情報をしっかり区分せず、便宜上こうした情報を営業秘密として一括処理しようとする点で、使用者の秘密保持管理体制に本質的な不備があることを示しているからです。また、ほぼすべての情報を秘密保持の対象とすることは、実質的にこうした情報を管理できていない、または管理しきれていないことをも意味しているからです。
そこで、使用者は自社の営業秘密と知的財産権について整理し区分する作業を行い、労働者に対し社内の秘密保持管理体制（会社が指定した秘密情報へのアクセス権者やアクセス方法、パスワード等の設定と秘密である旨の表示など）を明示する必要があります。
反不正当競争法（2019年改正）第9条第4項によれば、営業秘密は、公に知られていない、商業価値を有し、かつ権利者が相応の秘密保持措置を講じている技術情報と経営情報等の商業情報を指すとされます。
2017年改正前の反不正当競争法の関連規定（第10条第3項）と比べれば、営業秘密の条件として、「実用的で権利者のために経済的利益をもたらす」という内容が削除されました。
なお、秘密保持義務については、すべての労働者をその対象とすることが可能です。

違約金、解除と賠償責任
（1）労働者の違約金支払義務と解除権
労働者が競業避止義務に違反した場合、使用者に対して違約金を支払う義務を負います。違約金の金額については、労使双方間でこれを合意することができますが、違約金が明らかに高く設定されているとして労働者側から調整請求があった場合、人民法院は違約金の設定の合理性や、労働者の支払能力を遥かに超えているかどうかなどの要素を総合考慮の上、法によりこれを減額する可能性があります。
労働者が競業避止義務に違反し、使用者に対し違約金を支払った後も、使用者は当該労働者に対し、競業避止に関する約定に基づき、競業避止義務の継続履行を要求することができます（労働紛争審理解釈（2020）第40条）。
使用者が、労使双方間の競業避止と経済的補償に関する約定に従い、労働者の離職後の競業避止期間内における経済的補償の支払義務を3か月間履行しなかった場合、労働者は競業避止に関する約定を解除するよう請求することができます（労働紛争審理解釈（2020）第38条）。
労働者による前記の解除権の行使は、労働者が履行済みの競業避止期間に相応する経済的補償の支払いを請求することを妨げるものではありません。
（2）使用者の競業避止条項履行義務と解除権
使用者は、競業避止に関する約定に基づき、経済的補償の支払義務を履行しなければなりませんが、労働者の離職後の競業避止期間中に、競業避止に関する約定を解除するよう請求することができます（労働紛争審理解釈（2020）第39条第1項）。
前記の状況が生じ、競業避止に関する約定を解除することとなった場合、労働者は使用者に対し3か月分の競業避止の経済的補償を余分に支払うよう要求することができます（同第2項）。
（3）労働者の賠償責任
労働者が秘密保持義務及び/または競業避止義務に違反し、使用者に損害を与えた場合は、使用者は労働者に対し損害賠償責任を追及することが可能です。