目から鱗の中国法律事情 Vol.75

2023/01/11

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国の新法「インターネット詐欺防止法」その3

今シリーズでは、2022年12月1日から施行されている中国の新法「インターネット詐欺防止法(中国語原文は「反電信網絡詐騙法」)」について見ています。前回、「インターネット詐欺防止法」は法学の常識からすれば奇異な条文があると述べました。他の部分はどうなのでしょう。

新たな機関
インターネット詐欺防止法では、国務院(日本の「内閣」に相当)はインターネット詐欺防止業務を行う機関を設立するとし、さらに地方人民政府はその地方のインターネット詐欺防止業務を指導し、インターネット詐欺防止の目標、任務おおよびその業務機関について決定しなければならないとされています(第6条)。

インターネット事業者や銀行などの義務
さらに、インターネット詐欺防止法第7条は、インターネット事業者、銀行金融機関、銀行以外の決済機関およびインターネットのプロバイダーは、リスクの防止と管理について責任を負い、インターネット詐欺に対する内部統制メカニズムとセキュリティ責任システムを確立し、セキュリティ評価を強化し、新しいビジネスの詐欺に対するリスクへの対策を強化するとしています。2030460_l この文言から見ると、インターネット詐欺防止法は、銀行や決済機関を介しての振り込みなどを特にその対象としていると言えそうです。本シリーズ第1回や第2回でも「銀行によるネットバンクの取扱いに強い規制が入るということになりそうです」と述べました通りのことを表す規定と言えましょう。
そして、インターネット事業者には、ユーザーの身分情報を登録する義務も課されました(第9条)。こうして、インターネット事業者を通じてインターネットユーザーの個人情報が政府に登録されることになりました。さらに、SIMカードは国家が定めた上限以上の数を処理してはならないとも規定されました(第10条)。これについては非常に多い数が設定されるでしょうが、今後は上限到達したことを理由にSIMカードが手に入らないという可能性も出てくるかもしれません。
さらに、異常な詐欺行為を行っていると判断されたSIMカードは、インターネット事業者によって機能停止させることがあるとも規定しています(第11条)。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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