目から鱗の中国法律事情 Vol.76

2023/02/08

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国の新法「インターネット詐欺防止法」その4

今シリーズでは、2022年12月1日から施行されている中国の新法「インターネット詐欺防止法(中国語原文は「反電信網絡詐騙法」)」について見ています。前回は、インターネット事業者の義務などを見てきました。今回はこのシリーズの最終回です。

銀行の義務
銀行は銀行口座や支払アカウントについて国家が定めた上限以上の数を開設してはならないと規定されました(第16条)。SIMカードの数量規制と同じく、大きい数の上限が設定されるのでしょうが、特に詐欺行為などを行っていなくても、今後は上限到達を理由に銀行口座開設ができなくなる可能性があります。

インターネット事業者のユーザー情報取得
インターネット詐欺防止法は、インターネットの利用者にサービスを提供する際に、ユーザからその身分情報を取得しなければならず、それがなされない場合、サービスを提供してはならないと規定されています(第21条)。同様の規制はこれまでも中国ではありましたが、インターネット詐欺防止法では、この「サービス」にソフトウェアのダウンロードやインスタントメッセージ、オンラインゲーム、オンラインライブなどを含むとしています(第21条第4号)。これから中国で、微信などのインスタントメッセージを始める際にも、身分情報が求められるということになりそうです。25200874_l

その他の規制
インターネット詐欺防止法は全50条であり、まだまだいろいろな条文があります。しかし、残りの条文は本シリーズ第1回で説明したように、各地の公安が連携してインターネット詐欺活動に有効な懲罰を加えるというような規定となっています。ここまで直接市民の生活に関係が深い条文をピックアップして見てきましたが、見ての通り「インターネット詐欺防止法」という名称はついていますが、インターネットのユーザ管理のための法律という側面があります。
第1回目でも述べましたが、インターネットを普通に使う分には普段の生活から大きく変わることはないと思われます(もっともインスタントメッセージを始める際には身分確認など若干の手間は増えますが)。しかし、今後、インターネット詐欺防止法をどのように解釈するのかという指針も発表されていくでしょう。
それらの追加情報も、特に中国で企業に勤めている・企業を経営している方は確認しておく必要があるでしょう。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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