香港フィルハーモニー管弦楽団 2023/2024公演発表

2023/08/16

50周年にふさわしい多彩な指揮者やソリスト
贅沢なプログロムをはじめ無料コンサートも

HK Phil_(c)_Cheung Wai-lok


©Cheung Wai-lok

香港フィルハーモニー管弦楽団2023/2024年度の公演内容が発表された。2023/2024シーズンはオーケストラのプロ50周年シーズンであり、音楽監督ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン率いる最終シーズンでもあるが、まずは香港フィルの50年の軌跡をここで追ってみたい。

香港フィルハーモニー管弦楽団 (以下、香港フィル) は、香港で活動するプロ・オーケストラとして最も歴史が長く、いまやアジア有数のオーケストラであるだけでなく、世界を代表する屈指のオーケストラだが、その道のりは決して平坦ではなかった。香港フィルの前身は、1872年に創設された音楽クラブ(音樂社)。1895年にオーケストラとなり、最初の演奏会は1895年11月に行われた。1912年に香港大学が開校すると、主なコンサートは学内の陸佑堂で行われるようになった。第二次大戦中、多くの楽員収容所へ日本軍によって収容されたが、監視下で音楽を奏でることもあったという。戦後1947年には中英管弦楽団として再編成され、主にセント・ジョーンズ教会で演奏が行われた。当時のメンバーは約30名。1957年に香港管弦楽団に改名。1973年3月にプロ・オーケストラに組織変更することが決定、1974年に香港政庁主導でプロ化が進められた。1969年から香港フィルの音楽監督を務めたインドネシア系中国人指揮者リム・ケヂアン(林克昌)を中心に、香港から7名、海外から20名のプロ音楽家が加入し、準備が進められた。リムはアムステルダムやパリでバイオリンを学んだ後、北京の中央交響楽団の指揮者となる。1968年、香港に移住し、1969年にヴェルディの歌劇「椿姫」で香港フィルを初指揮、アマチュア・オーケストラ時代の香港フィル首席指揮者アリーゴ・フォア (1953年より)から首席指揮者を引き継いだ。プロとして初のコンサートのわずか2週間前に香港フィル常務委員会が組織されたのだが、このようにしてプロ・オーケストラへの旗揚げは苦難の連続であった。

第1回コンサートは1974年1月11日、セントラルのシティー・ホール(大会堂)でリムの指揮、アルゼンチン人ピアニストのシルビア・ケルセンバウムとの共演で、ベートーヴェンの「エグモント」序曲とピアノ協奏曲第5番「皇帝」、そしてチャイコフスキーの交響曲第5番が演奏された。オーケストラのメンバーは77名でスタートしたが、そのうち20名はフリーランスのプレーヤーであった。なお設立当時のメンバーの中には日本人のクラリネット奏者とトロンボーン奏者各1人が含まれている。

現在の香港フィルについて話を戻そう。2023/2024シーズンで音楽監督を辞するズヴェーデンは次のように語る。「来シーズンは私の音楽監督としての最後の任期となります。これまでこの素晴らしいオーケストラを率いてきたことを光栄に思いますし、香港のクラシック音楽愛好家の皆様の変わらぬご支援に感謝いたします。私はオーケストラが成し遂げた変革を非常に誇りに思っています。皆さんにとって、2023/2024シーズンは思い出に残る、忘れられない経験となるでしょう」。

香港フィルの2023/2024シーズンで注目されるコンサートは次の通り
●ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ジョシュア・ベル、ルドルフ・ブッフビンダー、ヨーヨー・マ、ラン・ランなど世界を代表するソリストたちとの共演が目白押し。2015年から2018年まで、毎年1作ずつを最高の歌手によってコンサート形式上演されたリヒャルト・ワーグナーの大曲「ニーベルングの指環」はCD化され、世界中で絶賛の評価を得たが、今回はワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」を同じくコンサート形式で取り上げる(6月21&23日)。ズヴェーデンの音楽監督としての最終公演(6月28&29日)のプログラムは香港フィルファンの一般投票で選ばれることとなっている。
・ベートーヴェン解釈の第一人者ピアニストの誉れ高いルドルフ・ブッフビンダーが奏でるベートーベンのピアノ協奏曲第4番(9月15日)と5番(9月16日)は聞き逃せないコンサート。
・ズヴェーデンと人気チェリストのヨーヨー・マによるドヴォルザークのチェロ協奏曲。1夜限りのコンサートなので、売切必至!(11月8日) 。
・ピアノのスーパースター、ラン・ランはズヴェーデンとベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を演奏(12月15&17日)。

●国際的に高く評価されている客演指揮者たち
パーヴォ・ヤルヴィ、ヴァシリー・ペトレンコ、タルモ・ペルトコスキの再共演、マイケル・ザンデルリング、ユッカ=ペッカ・サラステ、カーチュン・ウォンが初登場。
・今年香港フィルと初共演した前NHK交響楽団の音楽監督パーヴォ・ヤルヴィは今回はショスタコーヴィチの最も有名な作品といわれる交響曲第5番を取り上げる(3月29&30日) 。
・今年、鮮烈な香港フィルデビューを果たしたロシアの指揮者ワシリー・ペトレンコは、ベルリオーズのオペラ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」序曲やラヴェルのバレエ「ダフニスとクロエ」全曲、そして辻井伸行をソリストに迎えラヴェルのピアノ協奏曲など全フランスプログラム(12月1&2日)。12月1日の朝10時には辻井伸行とのラヴェルのピアノ協奏曲のみの無料コンサートもある(詳細後日決定)。辻井の過去2回の香港公演はいずれも即完売だったので、お聞きになりたい方はお早めに。辻井との公演の翌週ペトレンコはR. シュトラウスセレナードと歌曲、そしてマーラーの交響曲第4番を取り上げる(12月8&9日)。
・2022/2023シーズンフィナーレを指揮した2000年生まれのフィンランドの若手指揮者タルモ・ペルトコスキは2023/2024のシーズンフィナーレコンサートを指揮し、マーラーの交響曲5番でシーズンを締めくくる (7月5&6日) 。
・リトアニアのヴァイオリニスト、ジュリアン・ラクリンが、ブラームスの名作バイオリン協奏曲を新進気鋭のシンガポール指揮者で2016年グスタフ・マーラー指揮コンクール優勝者のカーチュン・ウォンと共に演奏 (2月2日) 。カーチュン・ウォンは2024年9月より英国の名門ハレ管弦楽団の「首席指揮者」および「アーティスティック・アドバイザー」に就任、さらには今秋からは、日本フィルハーモニー交響楽団「首席指揮者」、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団「首席客演指揮者」に就任する現在アジアで最も注目すべき指揮者。
・ドイツの指揮者ミヒャエル・ザンデルリングは香港フィル首席クラリネット奏者のアンドリュー・サイモンとモーツァルトのクラリネット協奏曲、そしてショスタコーヴィチの交響曲第6番やリヒャルト・シュトラウスのドン・ファンが演奏される (4月12&13日) 。また12日朝10時の無料コンサートではショスタコーヴィチの交響曲第6番が演奏される。
・フィンランドの名指揮者ユッカ=ペッカ・サラステは香港フィル初デビュー指揮でベートーヴェンの英雄交響曲を演奏(4月19&20日)。

辻井 伸行 ©Giorgia Bertazzi

辻井 伸行
©Giorgia Bertazzi

ヴァシリー・ペトレンコ ©Svetlana Tarlova

ヴァシリー・ペトレンコ
©Svetlana Tarlova

●香港フィル名物の年末恒例ニューイヤーコンサート
今年はチリ系イタリア人の指揮者パオロ・ボルトラメオリがラテンアメリカの名曲レブエルタスの“センセマヤ”、ガーシュインの“キューバ序曲”、そしてピアソラの「ブエノスアイレスの四季」より「冬」などを指揮。例年とは少々趣の違ったニューイヤーコンサートはぜひ注目したい(12月30&31日)。

●スワイヤー・シンフォニー・アンダー・ザ・スターズ
香港フィルの毎年恒例の野外コンサート“スワイヤー・シンフォニー・アンダー・ザ・スターズ”が今年もセントラル・ハーバーフロントで開催(11月18日)。香港で最も入手が困難と呼ばれている「無料プラチナチケット」の争奪戦は毎年のことだが、秋の夜空に音楽と花火を満喫できる喜びに是非チャレンジ!

●前述の通り、香港フィルが1974年1月11日のプロオーケストラとして初公演で取り上げたベートーヴェンのエグモント序曲とチャイコフスキーの交響曲第5番と共にベートーベンの合唱幻想曲が演奏される(1月12&13日)。

香港フィル創設50周年にふさわしい実に多彩な指揮者やソリスト、ぜいたくなプログラムや、無料コンサートなどなど、日頃はクラシック音楽を聴かない方々も、ぜひ一度コンサートに足を運んで、音楽のひと時を楽しんでいただきたい。

取材協力 : 香港フィルハーモニー管弦楽団
香港フィルサイト: www.hkphil.org
URBTIXサイト: https://ticket.urbtix.hk

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