目から鱗の中国法律事情 「中国の労働分野における「集団契約」①」

2023/10/18

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.84 中国の労働分野における「集団契約」 その1

中国では労働分野で、当局からの通知でときどき「集団契約(中国語原文は「集体合同」)」という言葉を見ることがあります。この「集団契約」とは、何なのかを本シリーズでは見ていきましょう。

集団契約とは
中国の労働分野の集団契約は、工会(労働組合)や労働者の代表が企業と各種労働条件について締結する契約をいいます。集団契約は、基本的に工会(労働組合)と企業が締結します。ただし、工会がない場合に、労働者の代表が工会に代わって集団契約を締結することになります(労働法第33条第2項、工会法第20条第2項)。
個別の労働契約は、企業と労働者の労働関係を成立させるために締結しますが、集団契約は労働関係を成立させるための効力はなく、成立している(成立する)個別の労働契約で成立した労働関係に標準的な労働条件を設定するために締結します。
日本などでは、企業同士が継続的に売買を行う場合などに、その企業同士で売買をする最低限の約束を基本的契約とすることがあります。例えば、「今後、当社と御社で売買契約を行う場合、その対価の支払いは商品を引渡した月の末日とし、検品はその支払日までに行わないと、賠償請求には応じない」などです。要するに、これと同じで、労働者と企業が締結する労働契約全てに共通する部分を集団契約という形式でまとめて締結しておくというものが集団契約なのです。
そのため、集団契約の内容は、「企業内全体の労働者の権利義務となる」と明確に法律上も規定されています(労働法第35条)。4094409_l

日本式に集団契約を理解すると
このような集団契約の効力を見ると、日本式に考えると、集団契約とは、労使協定や就業規則に近い効果を持つと言えそうです。それは労働者が企業と個別に締結する労働契約に規定されていなくても、集団契約に規定されている内容が労働者の労働条件などになってくるためです。
この意味では、中国で就職する際には、その企業にはどのような集団契約があるのか早めに確認した方がいいでしょう。ただ、もちろん、集団契約は、労働者と企業が平等に協議することで締結することが「できる」ものであり(労働法第33条)、必ず集団契約を締結しなければならないわけではありません。そのため、労働者が確認すべきことは、集団契約の内容以前に、そもそも集団契約が存在するのか(個別の労働契約以外に、労働者の労働条件を定めているものがあるのか否か)が第一の確認事項になるということです。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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