~香港で田舎暮らし~ ヴィレッジ・ハウス(村屋)通信 Vol.3

2024/01/03
Vol.3 村内を通りたければ通行料を支払え

文・鳥丸雄樹

 先日、知人と話す機会があった。「あ、奇遇ですね。僕も半年前に村屋に引越したんですよ」と言う。どのあたりかを尋ねるとランタオ島の東涌付近で、その辺は私も新居探しの際に一度見に行ったことがあった。「○○学校の辺りでしょ?地下鉄の駅を造ってるんだよね」「そうです、そうです。村の入り口に野良犬がいて、この前カバンを噛まれちゃいました」「ああ、怖いよね。うちのほうもこの前、猿がいて通行人の荷物を襲っていたよ」「あ、そうそう、うちは住所がないんですよ(笑)」「え?どういう意味?」「所有者がタックスを払いたくないから、村屋を建てても登記していないんですって。だから賃貸契約書にも住所が書けないし、郵便も届きません」「それ、すごいよね」。香港の田舎隅々までに法律が行き届いているのだろうか、と村屋に住んでから徐々に感じ始めている。香港島や九龍とは違う世界観がここには存在する。IMG_8063

さて、私も新居に移るにあたり、住所なしの彼にも引けを取らない経験をさせていただいた。引越前に新居の掃除で通うこと2週間、その間に村の入り口には「私有地につき一般車両の通行を禁ずる。ここは代々、李一族の土地である為、ゲートは常に施錠される。御用のある方は下記の連絡先まで。携帯 ○○○○-○○○○ 管理人」との立札があることを知った。村のゲートには鎖が掛けられ、時には施錠されていたり、時には開いていたりした。

不動産仲介業者からは「私の家の前の駐車スペースを常日頃使う場合は、毎月400HK$を村の管理委員に支払わなければならないが、使わないのであれば支払う必要はない。そして、たまに友達が来て駐車するくらいならば、問題ない」と聞かされていた。【管理委員】とか【ゲート施錠】とか聞いた時には、いかにも村らしいなぁと感じた。  取りあえず、2週間後に引越業者の車が入れるようにする為に、立札にあった携帯番号にWhatsAppで挨拶文を送っておいた。「ゲートの管理人様・李一族の方へ。はじめまして。今度、村の○番地に引越をしてきました日本人です。○月○日に引越の車が家の前まで来ますので、その時はゲートを開けてください。また、日にちが近づいたらご連絡をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。良識ある村民となりますようがんばります」というような文章だ。

賃貸契約締結後、引越業者2社から見積を取り、レスポンスが早くて安い方に決定した。エレベーターがない場合、フロアを1階上がるごとに引越費用も割増となっていくそうで、2階にある我が家まで、ベッドのマット、冷蔵庫、洗濯機、段ボール5箱を運ぶと1900HK$とのことだった。段ボール箱とパッキングのガムテープは無料サービスで事前に送り届けてくれた。

引越の日が近づいてきたが、村のゲートの管理人からは返信がなかったので、不動産仲介業者から管理人を突いてもらうことにした。そして、不動産仲介業者を通しての回答に唖然とした。「引越業者の車を村内に入れる為には、村の永久通行権を500HK$で購入しろ」と言うのだ!! 頭の中で警報ベルが鳴りながら、すぐさま引越業者に連絡を入れた。「村に車を入れることはできないそうで、ゲートから家まで約30mあるのだけれど、同じ値段でやってくれるよね?」答えは否。1900HK$ の20%増し(380HK$追加)になると言う。IMG_8064  380HK$の割増料金を支払って、ゲートの管理人と徹底抗戦を張るか、潔く軍門に下るか。悩ましい、そしてシャクに触る。
近くの村に住む香港人の友人にも相談してみた。
「あ~。物件決める前に相談してくれれば良かったのに。香港は村それぞれに風習やルールがあるから、把握した上で決めないと大変よ。朝起きたら入居者の家のドアの外に嫌がらせで大きな岩が置かれていて外に出られなくなった、とかよく聞くのよ」と言うではないか。このエリアの村々では各村長が集まる会合があるそうで、友人が住む村の村長から私の村の村長にお言葉添えをしてもらえるようなことも二人で思案した。

しかし熟考の末、3つの理由からゲートの管理人に500HK$を支払い、永久通行権を購入することにした。
①数年後にこの村屋を退去する際も引越業者の車が入れる、②今後も通販ECサイトで買い物をするだろうから、村のゲート前での受け渡しは私が苦労するだけである、③何よりも【郷に入っては郷に従え】ではないか。

無反応だった管理人にその旨をWhatsAppでメッセージすると、「ようこそ我が村へ!現金と引き換えにゲートの鍵をお渡ししますね。明日11時にゲート前で!どうぞ素敵な村ライフをお過ごしください!」と、急に優しい文面のメッセージが返ってきた。
私だって伊達に中国在住20年を迎えるわけではない。鍵受け渡しの当日は菓子折り持参で待機した。
どんなツラをした村社会の象徴が来るのかという好奇心と共に。しかし、鍵を持参したのは彼のフィリピン人メイドだった。喰えない奴め。

つづく

※登場する固有名詞は全て仮名です。※写真はイメージです。

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