目から鱗の中国法律事情 「中国で、一つの事例に法律が競合する場合②」

2024/02/28

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.90 中国で、一つの事例に法律が競合する場合 その2

本シリーズでは、一つの事例に法律が複数適用される可能性がある場合、中国ではその法律が適用される優先順序が決まっていないという話をしています。これを具体的に見るために、前号に引き続き事例を見ていきましょう。

[事例]AがBから家を買い、その際にBは「間もなく隣接する道路の拡張工事があり、庭が少し削られるが立ち退く必要はない」と説明していました。Aは鍵を受け取り、その家での居住を開始しました。ただ、家の所有権移転登記はまだ済ませていませんでした。3カ月後、隣接する道路の拡張工事が始まりましたが、当初の計画から変更があったのか、結果としてAは当該家から立ち退かざるを得なくなりました。そこでAは当該家の売買契約の解除を求め提訴しました。

この裁判の結果としては、Aは、契約法(中国語原文は「合同法」)第94条により、契約解除が認められました。しかし、この結果に不満を持ったBは上訴しました。

上訴による第二審の結果
そして、上訴の結果、Bに契約法第142条の規定が適用され、Aの契約解除は認められないとの結論に至ったのです。契約法第142条は「目的物の毀損(きそん)、滅失のリスクは、目的物の交付前には売主が、交付後には買主が負担するものとする。ただし法律に別の規定もしくは当事者間に別の約定があった場合はこの限りではない」と規定していました。

契約法第142条の規定は、目的物(この事例では「家」そのもの)が引き渡されたら、その目的物に発生する危険(リスク)は買主が負うとしているのです。この場合の「危険」には、道路工事で家を立ち退かなければならなくなることも含むと裁判で示されたのです。24977118_m

二つの裁判結果
このように、この裁判では第一審と第二審では全く異なる結果が出ました。しかし、ここで問題なのは、どちらも「法律通り」であり、どちらが間違えているという問題ではないということです。いわば適用する法律によって回答が変わるということを表しているのです。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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