僕の香妻交際日記 忘れ物は悪、だから忘れ物をした自分も悪なのか?

2024/04/17

P16 HK Wife_727第88回

2週間ローテ時間割の落とし穴
日本の学校と異なり、娘の学校の時間割は2週間単位でローテーションされるので、今週が第1週目なのか第2週目なのかが大人の私にもたまに分からなくなる。
それは先日の火曜日のこと。本来、第2週目の火曜日には体育があるのだが、私がうっかり第1週目の時間割表を見ていたため、娘に体操服を持たせるのを忘れてしまったのだ。

周りの目を気にする文化
私自身が子どものころは、周りと違う格好をしているのが嫌だった。
幼稚園での夏祭り、みんなが浴衣を着てきたのに自分だけ甚兵衛を着ていてとても恥ずかしかったのを今でも覚えている。しかし、そのように子どもが恥ずかしい思いをしているときも、甚兵衛を私に着させた張本人である母親は子どもの気持ちなど全然気にも留めない。そうやって親の知らない間に子どもは少しずつ周りとの違和感を感じながら成長し、歳を重ねるごとに過去の何気ない経験や感情がその子の将来の人間性へと影響を及ぼすのである。

体操服を忘れて誇らしげな娘
娘に体操服を持たせるのを忘れてしまった火曜日の夜、本人に学校で先生やクラスメートに何か言われたかと聞くと「私だけ赤い制服でスペシャルな感じだった」と予想だにしていなかった返答が返ってきた。
娘の言うところのスペシャルな感じという部分にネガティヴな感情は見られず、むしろいつも通り楽しげにその日の体育での出来事を話してくれた。

ダメの本質を知るべし
自身の子どもの頃を振り返ると、日本の教育は「何がダメなのか」を教育することに重視していたように思う。
忘れ物はダメ、遅刻はダメ、食べ物のお残しはダメ、周りと違うことをしてはダメ、休んだらダメ、失敗したらダメ…ダメなものを語らせる討論会があれば日本人は世界一になれるだろう。
世の中のダメなものを知り、それらのことを避けるべく行動を取ることは大事であるのは間違いない。一人一人がダメなことを避けられれば、集団としての統制が取れるし、その集団の士気も上がる。実際に個人の身体能力では劣る日本人がチームスポーツになると外国勢に引けを取らないのもその統一の取れた組織力があるからこそであろう。

しかし、ダメなことを徹底的に指導する教育には細心の注意が必要だ。アフターケアなしにダメを厳しく教え込むことで子どもの感情を必要以上に抑え込んでしまう危険性があるからだ。否、そうやって人間の感情を抑え込むことがもしかしたらそのような教育の目的なのかもしれないが…。日本人は子どものころから当然のように感情を抑えられて育ってきた、そして周りのみんなも同じように感情を抑えられている、忘れ物は悪、忘れ物をした人はダメな奴というようなレッテルを小さい頃から頭の中に植え付けられる。
すると、中にはそういった悪に敏感に反応する人間が現れる、それは時に先生や親といった大人であったり、クラスメートといった子どもであったり、彼らは悪を犯す人間を嫌悪する。忘れ物をした人間を執拗に責める、いじめるといったことが起きる。忘れ物は悪、だから忘れ物をしたお前も悪だ、といったように…27677177_m

もちろん忘れ物はダメだし、遅刻もダメだ。でも「ダメ」の本質はその人間が繰り返しそれらのミスを犯したときである。そして本当にダメなのはその人の事態を改善しようとしない態度、心意気である。教育する側がこういったダメの本質を分からずにダメだダメだとひたすら繰り返すことは危険だろう、というのが私の思うところである。

娘の学校はインターということもあり様々な国籍、肌の色、言語を有する先生、子どもたちが集う。ここでは多様性が重視されるし、服装にしても髪型にしてもあれがダメこれがダメというのは一言には言えない環境がそこにはある。
日本男児の私から見ればインターの自由奔放な教育方針に疑問を覚えることも多々あるが、娘が体操服を忘れたあの日、ふとインターの雰囲気というのはそれはそれで子どもの成長に良い影響を与えている部分も大いにあることを感じた。

願わくば、周りの目を気にせず自分の意志で持って我が道を進んでいきつつ、最低限のマナーと礼儀、そして多少の逆境に負けない根性を兼ね備えた国際人になってほしいと思うが、後者の部分は親である妻や私の指導が大事になってくるので、親子二人三脚で引き続き学びを重ねていくことが必要なのは言うまでもない。


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)
東京都出身。香港歴11年。現在は香港の現地法人で人事部長を務めている。モットーは三度の飯のために飯を食わない。特技は豚のように食べること。
 

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