【香港の五輪選手】を知ろう&香港での【楽しみ方指南】

2024/07/17
居住する今こそ香港のオリンピック代表を知ろう

449044200_17928260453879761_5304109659374387357_n4年に一度の国際大会には、世界中から数々のアスリートが熱き想いを胸に参戦する。ここ香港でも、7月の開会に向け、厳しいトレーニングに追い込みをかけ、自己の限界に挑戦しようとするエリートのアスリートたちが存在する。挫折、葛藤、歓喜、さまざまな思いが交錯する戦いの場で、香港人選手がどのような活躍をするのか、歴史の目撃者になろう。

IMG_7461 中国香港オリンピック委員会(略称:SFOC、港協暨奧委會)は1950年の設立以降、より健康的なライフスタイルを実現するために、さまざまなスポーツイベントや競技会の開催を通じて、香港におけるスポーツ活動に対する公共の利益を促進することを目的に活動を行ってきた。今年6月にはウエストカオルーンパークにて、香港のアスリートと一緒に走るランイベントなどを開催、のべ4,000人の参加者を記録した。香港全体も間近に迫ったパリ五輪に向け、熱気を帯びてきている。

時は遡ることイギリス植民地時代。香港がオリンピックゲームに初めて参加したのは1952年のことだ。過去のレコードを辿ると温暖な気候のため夏季オリンピックへの出場数が圧倒的に多い。中国返還後、香港のアスリートスキルを一段と上げることに貢献した要素の一つに、香港体育学院(略称:HKSI、中国名:香港體育學院)の設立が挙げられる。前身は82年にジョーキークラブによって創設されたJubilee Sports Centreで、2004年に正式に現在のような学院体系となる。同学院 の目的は、香港人のスポーツの才能を発掘・育成し、スポーツの卓越性を追求できる環境を提供すること。スポーツ施設以外にも、エリートのコーチングとトレーニング、スポーツ科学、スポーツ医学、応用研究など多種多様な教育プログラムがある。IMG_7454

SFOC 港協暨奧委會
www.hkolympic.org

HKSI 香港體育學院
www.hksi.org.hk

 

 

香港史上初の金メダル
「風の女王」李麗珊 Lee Lai-shan
Copyright© WAHK

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1970年、離島の長洲島で生まれた李麗珊。愛称サンサンと呼ばれ、叔父の指導の下12歳からウインドサーフィンに親しんだ。17歳で競技に参加し、19歳で香港代表選手のひとりとなった。
ここに彼女が努力家であることを証明するひとつのエピソードがある。それは、毎回のトレーニングやレースの内容、成績をノートに記録し、自身の損得は自らに由来するものだと考えた。彼女の持つ実力はすべてこの努力によって築き上げられたといっても過言ではない。
当時、国際スポーツ界では香港人選手の知名度は低かったが、サンサンは1990年のアジア大会で銀メダルを獲得し、ウインドサーフィン界を驚かせた。
さらに同年に行なわれた欧州選手権にも香港代表としてサンサンは参加。この時の選手権では主催側がヨーロッパ以外からの選手の参加を歓迎したのはいいが、予想外にもヨーロッパ選手の立場に影響を与えることになり、中には「香港はゴミ」と発言する声もあがった。その後、サンサンはプレッシャーなのか、パフォーマンスを上げることができず、92年バルセロナ五輪では11位という結果に終わった。

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しかし、努力の女性はこのようなスランプを吸収するかのように巻き返し、96年アトランタの表彰台中央で、輝く金のメダルを手に持ち歓喜に満ちた笑顔を大衆に送った。その時に発したのが「香港のアスリートはゴミじゃない」という名言で、香港人に絶大な夢と希望を与えたのだ。ちなみに、アトランタの初戦、彼女を襲ったのはクラゲの奇襲で、完全に足から感覚を失っていたという。薬物の治療も甲斐なく絶望的にさえ思えたが、トレーニング通り精神状態を整え、より安定した演技で金メダルを獲得したという。

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香港バドミントン選手6名選出
さまざまな思いを胸にパリへ

香港体育学院(HKSI)にあるバドミントン体育ホールの中で行われたメディアプレビュー。ここではパリ五輪に選出された6名の選手の練習風景や、それぞれがリラックスした表情でインタビューに応えるシーンも垣間見ることができた。今回が初のオリンピックとなる者、今回を最後に前線を退く者、さまざまな思いを胸にパリへの扉が今開こうとしている。

東京の屈辱を晴らせるか、最後のペア試合

PastedGraphic-1<混合ダブルス>
左:謝影雪(Tse Ying-suet)
右:鄧俊文(Tang Chun-man)
ダブルスとしてのレコードは2021年世界選手権銅メダル、20年東京五輪4位。

「鄧謝配(鄧謝ペア)」としてメディアでクローズアップされる謝影雪と鄧俊文選手。2017年デンマークスーパーシリーズプレミアで初タッグを組んで以来、二人は香港バドミントン界をリードし、民衆に希望を与えてきた。記憶に新しい東京五輪では、惜しくも日本の渡辺勇大・東野有紗ペアに敗れメダル獲得ならずも、4位に入賞し香港バドの歴史を塗り替えた。PastedGraphic-2 昨年はパリ五輪の出場権をかけ国内外で20以上のゲームに参加したという鄧選手はこう語る。「毎回の試合では体力と精神を消耗します。自分の成績やパフォーマンスに自信が持てなくなることもありますが、謝選手とたくさんコミュニケーションを取り、失敗したら新しい方法にトライするなど、試行錯誤の繰り返しです」。
一方、謝選手はパリ五輪の切符を手にしたときの心境を次のように吐露する。「今まで休みなしで試合に参加してきました。今回出場できるとわかった時、全身の力がすーっと抜けるように軽くなったことを昨日のことのように覚えています」。鄧選手とペアを組んだデビュー戦以来、平坦な道のりではなかった二人。特に彼女が最もつらかったと振り返るのが22年のデンマークオープン直前に右肩を脱臼するという怪我だ。半年間の休養を余儀なくされ、世界ランキング6位から26位に転落。このような苦難の中でも、精神を安定させ望みを失わなかった彼女がひときわ感謝するのが医療チームをはじめ、応援してくれる周囲の存在だったという。「今までの自分のプレイに一回も満足したことはありません。今回のパリで100点満点のゲームができるよう頑張ります」と話す。今回で最後のペア出場ともささやかれる鄧謝ペア。パリが最後の花舞台となるか注目しよう。

 

 

目標は金。この世に不可能なんてない

PastedGraphic-32<男子シングルス>
李卓耀(Lee Cheuk-yiu)
2017年ニュージーランド オープン グランプリ ゴールドで自身初となる金メダルを獲得。

金髪にピアス、左腕にはタトゥーといういでたちが特徴的な李卓耀選手。「一哥(一番星)」の愛称で親しまれる彼がバドミントンを始めたのは4歳の時。コーチの父とともに練習をし13歳という若さで香港代表入りすることになった。PastedGraphic-4 昨年に新しいコーチを迎えたことで、彼のパフォーマンスは劇的に躍進し、インドやドイツでの国際試合では決勝まで進んだ。世界ランキングは13位にまで上昇し、今最も勢いがある選手と言えるだろう。初めてのオリンピック出場に向け「興奮や緊張もある。たったひとつの目標、それは金を取ること。この世に不可能なことはありません。現在まだ自分が最高水準に達していないのもわかっています。パリに向け準備していきます」と語った。

 

 

自分を突破する最高の機会に

PastedGraphic-5<女子シングルス>
盧善恩(Lo Happy Sin-yan)
中学時代にバドミントンを始め、2021年に香港ユースシップ・シングルスで金メダルを獲得。香港バドの期待の若手といわれる。

「母は私が生まれた時に、楽しく生きてほしいと願ってくれました。だからHappyという字を名前に入れ改名したのです」。そう語るのは若干21歳の若さ溢れる盧善恩選手。アイドルのような見た目で現場を和ませる彼女は記者会見でもマイペースな落ち着いた態度でメディアへ受け答えをしていた。初のオリンピック舞台は、世界のエリートアスリートが集う雰囲気を楽しみたいと話し、毎ゲームで最善を尽くすのみと意気込む。期待の星が今回の五輪でどう生まれ変わるのか、活躍に期待したい。PastedGraphic-6

 

 

3歳差の最強凹凸コンビ

PastedGraphic-7 (002)<女子ダブルス>
左:楊雅婷(Yeung Nga-ting)
右:楊霈霖(Yeung Pui-lam)
2021年にダブルスとしてデビュー、バーレーンチャレンジカップで初の金メダルに輝いた。

「雙楊配(ダブル楊コンビ)」として注目を浴びる楊雅婷26歳と楊霈霖23歳の二人。21年バーレーン戦で息の合ったパフォーマンスを見せ、着々とパリ五輪に向け最終調整に入っている。「最高のダブルス人選」と双方認め合うほど、互いの性格や技術をうまくカバーし合えるコンビネーションが見どころ。PastedGraphic-8 そんな彼女たちを襲ったのが22年に経験した楊霈霖の右肩靱帯損傷だ。経験が浅く否定的な事が大嫌いという性格が災いし、怪我が重症化するまでコーチに話せなかったという霈霖。雅婷はそんな彼女を支え、自身ができるトレーニングに専念した。来たるパリでのゲームが彼らの二度目の出発点となるだろう。

 

 

今大会から新しい船種「iQFOiL」へ
香港選手2名はマルセイユを制するか

ウインドサーフィンが初めてオリンピックの正式種目に採用されたのは1984年のこと。注目を集めるウォータースポーツとして36年の間、五輪の海の花形であり続けた。今回のパリから公式挺が「RS:X」から「iQFOiL」へと変わり、微風でも高速で滑走することができ、揚力発生を生かしたフォイルは乗り手ごと水から浮く仕組みとなっている。まるで海の上を飛んでいるように見える新しいウインドサーフィンの形に期待が高まる。

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香港からは2023年杭州アジア競技大会でパリ五輪の切符を手にしていた女子の部・馬君正選手と、今年4月に念願の出場権を獲得した男子の部・鄭清然選手の2名がマルセイユのマリーナに挑む。開催時間は現地時間の7月28日~8月2日。五輪初出場を果たす2人のアスリートとウインドサーフィンとの出会いから振り返ろう。

 

PastedGraphic-9馬君正(Ma Kwan-ching)
1997年生まれ。7歳からウインドサーフィンを始め12歳で香港チームプロ入りを果たす。2019年のアジア競技大会では2位に輝き自己記録を更新した。

7歳からの夢が現実のものに
編集部のインタビューで開口一番「7歳から李麗珊を目標に頑張ってきました。今大会でその夢が現実となることにワクワクしています」と語ってくれた馬選手。アトランタで李麗珊が金メダルを獲得した1年後に出生した彼女は、周囲のすすめでウインドサーフィンを始めた。現在は李麗珊が生まれ育ったゆかりの場所であり、ウインドサーフィンの聖地とも言われる長洲に居を構える。
前回の東京五輪選抜会で自ら辞退を選んだ馬選手。理由を聞くと「将来的に公式挺がiQFOiLに変わることを知っていたので、他の選手よりもいち早く新しい板に慣れておきたかった」と話す。その頃からすでに彼女は東京ではなく、パリ大会を見据えていたのだ。東京五輪を犠牲にして得たのはiQFOiLを熟知したことによる杭州アジアカップでの銀メダルだった。「あの時の決断は間違いではなかった」この確信を胸に、来たるパリ五輪で香港の新しい風の女王となるか、結果が楽しみだ。

PastedGraphic-10鄭清然(Cheng Ching-yin)
2000年赤柱生まれ。幼少期は水泳とウインドサーフィンに親しんだ。2015年以降、本格的にウインドサーフィンの特訓を開始。22年アジアチャンピオンズカップで金、23年アジア競技大会で銅メダルを獲得。

負けてもまた這い上がる不屈の精神
素顔はまだあどけなさも残る24歳の青年。ウインドサーフィンとの出会いは「本当に偶然だった」と語る。赤柱で生まれ、海がいつもそばにあった幼少期の鄭選手は夏休みのある日、兄とウインドサーフィンのサマースクールに通うことになった。それ以降、水泳とウインドサーフィンに青春を注ぐことになるが転機は2015年。「より好きなウインドサーフィン一本の道を歩む」と決め全身全霊で特訓に打ち込んだ。
17年には頭角を現し、国際ユース大会で上位8位入りを果たすなど幸先のいいスタートを切っていたが、数々の挫折も経験した。それが東京五輪やアジア競技大会選抜での代表落ちだ。
「オリンピックやアジア大会は夢の舞台です。代表落ちしてしまった後は落ち込みましたし、泣いてしまったこともありました」。しかし、この時の涙は彼の心をさらに燃え立たせ、前に進む原動力となった。「このスポーツが好きだから頑張りたい。初心に戻って一から這い上がる」と仕切り直し、今年4月に念願のパリ五輪出場権を獲得した。船の帆のように優雅に海上を踊る鄭選手の姿を心待ちにしたい。

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どこで観る?
香港で楽しむオリンピック

 

1. 自宅で!
1前回の東京大会と同様、香港政府はパリ五輪の放映権を購入。TVB、ViuTV、HOY TVといった民放テレビ局や、政府が運営するRTHKで、オリンピック観戦を無料で楽しめることになった。香港とパリの時差は6時間。香港の方が早いので、夕方以降に行われる競技をリアルタイムで観たいなら、自宅でゆっくりもおすすめだ。

 

2. スポーツバーで!
2飲みながらワイワイ応援したいなら、スポーツバーが正解。もともと、欧州のサッカー観戦などをパブで楽しむのが一般的な香港。随一のバーストリート、ランカイフォン(蘭桂坊)だけでなく、香港各所にスポーツバーがある。また近年、ホンハム(紅磡)のケリーホテル内にある「Dockyard」などのフードコートや、ランチ営業のカジュアルレストランでも、昼間からスポーツ観戦できる場所が増えた。

 

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© KTo288 (Licensed under CC BY 4.0)

3. ショッピングモールで!
過去の五輪では、多くのショッピングモールがパブリックビューイングを開催した。前回の東京大会に至っては、一部のモールでピーク時に5,000人以上が集まり生中継を観戦。店舗の売上高も前年比20~25%も増加したという。そんな経済効果もあわせて、今回も各モールで大規模な観戦イベントが予定されている。さらに前回大会ではいくつかの公共体育館でもパブリックビューイングが実施されたことから、今年も開放が期待されている。お祭り気分になって、大勢の人と一緒に、香港人選手を応援してみてはいかが?

 

番外編 五輪テーマの公園で気分はアスリート!?
4今年4月、オリンピック(奥運)駅すぐの場所に誕生した「海輝道公園」のテーマは、ずばりオリンピック。約1万㎡ある敷地内には、フィットネスガーデンやジョギングコースのほかに、幼児でも登れるクライミングウォールや香港の公園には珍しい砂場などが設置されたプレイエリアもあり、楽しみながら身体全体を動かせる仕掛けがされている。ほかにも競泳選手を下から見上げたような天井ペイントや、聖火ランナーになったようなトリック写真が撮れる絶好の撮影スポットも。パリに行かずとも、五輪気分が味わえるかも?5

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