日本人駐在員の香港給与所得税務。TMF Group

2015/04/17

3月、4月は日系企業においては駐在員も含め、特に異動の多い時期です。他国と比べて香港税務は簡単、という認識を持たれている方も多いかと思いますが、駐在員税務は通常の個人所得税務に加えて考慮すべき項目が多く、複雑です。以下では香港における給与所得税(Salaries Tax)の基本的な考え方を、駐在員税務という観点から簡単にご説明致します。

日系企業の駐在員の場合、大半は手取り保証であり、従って駐在員の香港税務の計算、支払い、最終的な税金の負担までを含め雇用主が処理をするのが一般的です。外部の専門家に給与計算及び年次確定申告作業を委託している企業もある一方、外注はせず、社内の人事部や経理部などが作業をしている企業も見受けられます。香港税務当局の立場上、香港の給与所得税の年次確定申告はあくまで納税者本人(駐在員)による自己申告となります。従って、正しく確定申告、納税が行われなかった場合、そのリスクは雇用主のみならず最終的に駐在員にも及ぶ可能性がありますのでご注意下さい。

香港の課税年度は毎年4月1日から翌年3月31日となっています。国によっては課税年度中の納税者の居住形態によって課税範囲が異なるケースもありますが、香港の場合、居住形態ではなく、あくまで香港源泉所得の有無に基づき課税関係及び課税範囲が確定します。

駐在員の給与所得税の課税範囲の確定には、まず「香港雇用であるか」どうか、という点の判断が非常に重要となります。この判断は、単純に香港法人との雇用契約書が存在するか、というだけではなく、雇用契約書の交渉、締結が香港内、香港外のどちらで行われたのか、また駐在員の給与は誰によって、どこで支払われるのか、等を総合的に考慮し判断する必要があります。「香港雇用でない」場合には、香港外源泉所得を除く香港源泉所得にのみ課税さます。ただし、課税年度中の香港滞在日数が60日を超えない短期滞在者(出張者)の場合には香港での課税所得は発生しません(ただし、香港の永久居民の資格を有する者を除きます)。課税年度中の香港滞在日数が60日を超える場合、或いは香港滞在が給与所得税法上定める「Visit(短期滞在、訪問)」でない場合であっても、日本本社や中国子会社への出張など、香港外勤務日数がある場合には、総所得より所定のルールに基づき算出された「香港源泉所得」部分のみに課税される為、結果、香港外勤務に関する所得控除が可能です。

なお、香港ベースの駐在員が頻繁に中国本土のグループ会社に出張するケースでは、場合によっては香港、中国での二重課税が発生することもあります。給与所得税法上、「香港雇用」と見なされる駐在員に関し香港、中国の二重課税が発生した場合には、香港外勤務日数に基づく課税対象所得の按分(time apportionment claim)は適用出来ませんが、香港側では給与所得税につき、以下の救済措置が考えられます。

A.香港・中国間の租税協定による救済措置

B.香港の国内法(内国歳入法:Inland Revenue Ordinance(IRO))による救済措置

i) IRO 8(1A)(b)に基づく非課税措置の適用(課税年度中に香港で社内会議への出席、研修等含み、全く役務の提供を行わなかった場合)
ii) IRO 8(1A)(c)に基づく二重課税の排除(同じ所得に対して香港外で既に課税され、実際に香港外での個人所得税の支払いが発生している場合)なお、上記は香港側での救済措置ですが、香港、中国それぞれで雇用契約書を締結しており、それぞれの職務が明確に区分されている場合など、一定の条件を満たした場合には、中国側にて中国外勤務日数に対する控除を申請することも場合によっては可能です。

*上記はあくまで一般的なルールです。個別のケースについては別途各アドバイザーにご相談下さい。

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世界4大会計事務所のロンドン、香港事務所での駐在員税務分野における10年以上に渡るコンサルティング経験を持つ。2012年10月より、世界80ヵ国に120の拠点を持つグローバルファーム、TMF Groupの一員として、香港を拠点に広くAPACの日系企業に対し、税務、会計、法務事務、人事・給与計算に関するコンプライアンス及びコンサルティングサービスの提供を行っている。

 

 

 

 

〈執筆者プロフィール〉
浅田緑(あさだ・みどり)
TMF Group日本企業事業部(APAC)
アソシエイト・ディレクター、英国勅許税理士。

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