中国法律事情「中国の年休制度」高橋孝治

2015/08/31

中国の有給休暇 その1

皆さんは年次有給休暇(以下「年休」という)を知っていますか。中国にも年休制度はあります。しかし中国の年休は日本のそれとはかなり異なります。その異なる点を何回かに分けて紹介しましょう。しかしその前に、中国法は日本法と異なる理論によっていることを知っておいてください。まずは中国労働法の全体理論を見ておきましょう。

・中国労働法の基礎理論
中国は労働者が主人公の社会主義国です(中国の憲法第43条第3項)。そのため労働者保護は非常に手厚くなっています。しかし労働法の整備は遅れていました。1950年代からの中国の労働制度は新規労働者について国が統一的に就職や配属先を決め、一度就職すれば定年まで解雇などもないとい
う制度でした。つまり国が誰がどのように働くかを決め、その通りに働くという制度だったのです(単位制度)。このように雇用関係が「契約」ではなく「配給」によったため労働法の必要がなかったのです。しかし単位制度の非効率性が指摘されるようになり(向き不向きを考慮していない、解雇などの処分がなく給料も不変なので勤労意欲が湧かないなど)、改革開放以降、資本主義的制度の導入も手伝って1986年10月から雇用契約による労働制度が始まりました。
このため中国では労働法研究の蓄積はまだ薄く、労働法の起草委員も不備が多いことを認めています。現在単位制度は実行されていませんが、単位制度の残存と言える規定はまだ存在します。この中国労働法の背景理論を理解した上で年休を見ていきましょう。
①付与する要件
日本では同一の企業に半年以上勤続し、全労働日の8割以上出勤した場合、年休が付与されます(日本の労働基準法第39条)。これに対し中国では1年以上勤続した場合に原則として年休が付与されます(中国の労働法第45条、職工帯薪年休暇条例第2条、企業職工帯薪年休暇実施弁法第3条)。中国で年休を付与しなくていい場合は以下の3つのどれかに該当する場合です。
①法によって受け取った夏休みや冬休みが年休の日数を超えていた場合
②私用の休みの日数が20日超でその日数の賃金が控除されていない場合
③勤務年累計1年以上10年未満の従業員が2か月以上病気休暇をした場合(累計10年以上20年未満の従業員は3か月以上、累計年数20年以上の従業員は4か月以上)
(年休付与後に②か③の場合に該当した場合は翌年の年休を付与しない。職工帯薪年休暇条例第4条、企業職工帯薪年休暇実施弁法第8条)。
このように原則として年休を付与し、例外的に付与しないという考えは労働者保護が手厚い証と言えるでしょう。

高橋浩治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法ライター、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。
都内社労士事務所に勤務するも中国法に魅了され、退職し渡中。現在、中国政法大学博士課程で中国法の研究をしつつ、中国法に関する執筆や講演などを行っている。行政書士有資格者。特定社労士有資格者。法律諮詢師(中国の国家資格で和訳は「法律コンサル士」)。
詳しくはネットで「高橋孝治 中国」を検索!

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