総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:ご飯はダイエットの敵ではない!

2016/08/23
メディポート

メディポート代表:堀 真

日本では近年、米の消費が著しく減少していることは誰もが知るところです。食生活の欧米化や食事の形態が変わってきたことが大きな原因であると思われますが、約50年間に、消費が半減していると改めて聞くととても驚いてしまいます。ちなみに農水省統計によると米の消費のピークは1962年度で、一人当たりの消費量は118.3kgもありました。これが毎年ほぼ確実に減り続け2013年度には56.9kgになっています。この数字は食料向けの米の出荷量を単純に総人口で割ったものであり、人口増加もあるので単純に一人当たりの消費量が半減したとは言えないのではないかと思いますが、米の消費が激減していることには疑問を挟む余地はありません。

最近、ダイエットのためにご飯を食べないという声を聞く機会が非常に多くなってきました。低炭水化物ダイエットとやらを信奉している人があまりにも多いことに唖然としてしまうほどです。何がきっかけになってこのダイエット法がこれほどまでに浸透してしまっているのかわかりませんが、おそらくテレビや雑誌、さらに圧倒的に影響力が大きくなったネット情報が原因なのでしょう。低炭水化物ダイエットですから、ご飯だけではなく、麺類はもちろんのことイモ類などでんぷん質を多く含む食品を徹底的に避けているようです。

私自身はこの低炭水化物ダイエットは好ましくはないと考えますし、栄養学的にも問題があるものと思います。そもそも低炭水化物ダイエットの元となったアトキンスダイエットは、1980年代にアメリカで一時ブームになったものです。ところが、このダイエット法を提唱し自ら実践していたアトキンス博士が急逝したことで、急速にその支持を失い忘れられたものとなっていたのです。それが今なぜ復活してきたのか、とても不思議です。

さて、話をお米(ご飯)に戻しましょう。改めて言うまでもなく、米は日本人にとっての主食です。主食は、それぞれの地域で、糖質に富み、大量に生産でき、さらに保存性が良いものが選ばれて栽培されています。アジアでは主に米ですが、南米やアフリカではとうもろこしや豆類、少し北のほうでは麦になり、さらに北方で気候条件が厳しくなるとジャガイモの生産が増えます。日本では伝統的に米が栽培されており、食文化の根源ともいえる作物になっているのです。とても大切な作物であるが故、米に「お」をつけて呼ぶのです。ちなみに農耕の歴史は思いのほか古く、イスラエルでは2万3000年前の農耕の痕跡が発見されていますし、1万年ほど前には中国長江流域で稲作が始まっていたようです。パプアニューギニアではイモ類の栽培が9000年前には行われていたことが農業灌漑施設の痕から確認されています。このようにかなり昔から農耕が始められていたのは、人口が増加し食糧の増産を迫られたからです。これほどまでに長い時間をかけて現代の農業の根幹となる主食作物の生産が行われているわけであり、この主食をただ「太るから」という理由だけで避けてしまうのはいかがなものでしょうか? 主食作物は植物の種であり、また根が太った根茎であったりしますが、いずれもこれから植物が芽を出すためにしっかりと栄養が蓄えられた部分です。糖質ばかりが強調されますが、栄養素もしっかりと含まれているのです。栄養学的に優れた穀物は、いろいろな形に加工されて世界中の食文化を形成しています。中国では麺類や餃子・饅頭など、欧米ではパンはもちろんパスタやピザ生地といったものに加工されていることはすぐに思いつきますよね。

ご飯を食べなないで痩せることは計算上簡単なことです。毎日の摂取カロリーを500Kcalくらいは落とせるわけですから、2週間もすれば1kg減量できる計算になります。しかし、1万年以上もの時間をかけて日本の食文化の中心におかれた主食作物である米に対して、そのような扱いをしても良いはずがありません。洋食文化が日本に定着してからおよそ50年しか経っておらず、極めて短期間のうちに食文化が大きく変遷してしまったのが現状なのです。太る原因がどこにあるのか良く考えてみてください。中国の高所得者層の食生活では、日本のそれよりもさらに早いスピードで洋食化が進んでおり、世界最悪のペースで糖尿病患者が増え続けていることに、国の中枢でも国家存亡の危機感までをもつに至っているそうです。

低炭水化物ダイエットの流行を現代の食生活への問題提起ととらえて、自身の食生活を振り返り、太る原因を考えてみてはどうでしょうか。日本人の食文化を基本に立ち返って見つめ直す好機にして欲しいものです。太ってしまうのは決してご飯が原因ではないはずです。このことは、米の消費量が最も多かった1960年代よりも現代の方が肥満が多いことを見ても明らかです。

最後に、ヒトはなぜ空腹を感じるのでしょうか。これは血液中の血糖値が低下していることに対して、脳が唯一の栄養素が少なくなってきたことに危機感を覚え、早く血糖値を上昇させて欲しいと要求しているからです。このような状態であるにもかかわらず、血糖値がなかなか上がらない食事をしたらどうなるのでしょう。一部の学者は、脳の機能に支障をきたす危険性があると低炭水化物ダイエットに警鐘を鳴らしているほどです。

さて、あなたはどうしますか?

メディポート

Pocket
LINEで送る