中国法律コラム10「中国における職務発明の奨励」広東盛唐法律事務所

2016/09/19

従前は日本で開発済みの技術を用いて中国で生産をするというケースがもっぱらでしたが、現在では中国で研究開発をする企業が増えています。これに伴って、今後は中国現地法人の従業員が職務発明をするケースが増えてくることでしょう。日本でも、職務発明に対する報奨金が少ないとして従業員が会社を訴えるケースが多くありましたが、今後、中国でもこのような紛争が生じることが考えられます。職務発明をした従業員との紛争を回避するため、今回は中国における職務発明の奨励/報奨について解説させていただきます。

一、中国の特許権の種類

中国において、特許権として保護される発明創造には「発明」、「実用新案」、「意匠」の3つがあります。使用者が「発明」、「実用新案」、「意匠」の登録を受けた場合、職務発明をした従業員に対して奨励を支給する必要があります。また、当該特許権を自ら実施するか、他人に実施許諾するか、当該特許を譲渡するときは、報酬を支払う必要があります。

二、特許権取得後に職務発明者に支給すべき奨励

中国においても、使用者が「発明」、「実用新案」、「意匠」の登録を受けた場合、職務発明をした従業員に対して奨励を支給する必要がありますが、この奨励の支給方式及び金額について、使用者と従業員とは直接に約定することができます。また、規則制度によって定めることもできます。約定及び規則制度のどちらもない場合、使用者は特許法に定める方式及び金額に従い奨励を支給しなければならなくなります。まとめると次のようになります。

(1)使用者と職務発明をした従業員とに書面の約定がある又は規則制度に明確な規定がある場合、使用者が特許権の登録を受けた後、当該約定又は規定に定める方式、金額に従い従業員に奨励を支給すればよい。奨励の方式は現金に限られず、株式、ストック・オプション、昇進、昇給、有給休暇などその他の形式によることもできる。

(2)使用者が職務発明をした従業員と書面の約定をしておらず、かつ、規則制度にも奨励の方式及び金額が規定されていない場合、特許権が公告された後3ヶ月以内に奨励を支給しなければならない。奨励の基準は、発明特許1つにつき3,000元以上、実用新案特許及び意匠特許1つにつき1,000元以上でなければならない。

三、特許権の実施又は実施許諾をした場合の報酬

特許権の登録を受けた後、使用者が当該特許を自ら実施する、他人に実施を許諾する及び他人に特許権を譲渡する場合、特許実施による利益又はロイヤルティ、譲渡対価から一定の報酬を職務発明をした従業員に支払わなければなりません。報酬の計算方式及び金額について、使用者は従業員と直接に書面で約定するか、規則制度を制定し規定することができます。約定も規則制度の定めもない場合は、特許法に定める方式及び金額に従い報酬を支払わなければなりません。まとめると次のようになります。

(1)使用者と従業員とに書面の約定がある又は規則制度に規定がある場合、使用者は特許権を自ら実施する、他人に実施許諾をする、他人に譲渡するとき、双方の約定又は規則制度の定めに従い報酬を支払えばよい。

(2)使用者と従業員とに書面の約定がなく、規則制度にも報酬の支払い方式及び金額についての規定がない場合、特許権の有効期間内に特許権を自ら実施するか、他人に実施を許諾する、他人に特許権を譲渡する場合、下記の基準に従い報酬を支給しなければならない。
使用者が発明特許、実用新案特許を自ら実施する場合、毎年当該特許の実施により得る利益の2%を下回らない額を報酬として支払う。意匠特許の場合、毎年当該
意匠権の実施により得る利益の0.2%を下回らない額を報酬として支払う。使用者は右比率を参考に発明者又は創作者に足して一括で報酬を支払うこともできる。
使用者が特許権の使用を第三者に許諾する、又は特許権を第三者に譲渡する場合、ロイヤルティ又は譲渡対価の10%を下回らない金額を報酬として支払わなければならない。

四、助言

中国の特許法は、使用者が従業者と職務発明の奨励/報酬について自由に約定することを認めています。また、規則制度において奨励の支払方式及び基準を定めることも認めています。したがいまして、技術開発を担当している従業員と特許権登録を受けた場合の奨励/報酬の方式、基準及び退職した場合は奨励/報酬を受ける権利を喪失することなどを書面契約の方式で約定するか、又はこれについて専門の規則制度を制定するよう助言します。

項目 中国法に定める奨励/報酬の基準
出願時の報奨金 支払い義務無し。
登録時の奨励 実施の有無にかからわず、奨励を支払う必要がある。使用者と従業員とに約定がある又は規則制度に規定がある場合、約定又は規定に従い実施すればよい。約定及び規定のない場合は、特許権が公告された日から3ヶ月以内に奨励を支給しなければならない。その基準は、発明特許1つにつき3,000元以上、実用新案特許又は意匠特許1つにつき1,000元以上である。
特許権を自ら実施、使用許諾、譲渡した場合の報酬 使用者と従業員とに約定がある又は規則制度に規定がある場合、約定又は規定に従い報酬を支払えばよい。約定及び規定のない場合は、下記の基準に従い報酬を支払う。

(1)発明特許又は実用新案特許を自ら実施する場合、毎年当該特許の使用により得る利益の2%を報酬として支払わなければならない。意匠特許の場合は、毎年当該特許の使用により得る利益の0.2%を報酬として支払わなければならない。使用者は右比率を参考に、発明者又は創作者に対して一括で報酬を支払うこともできる。

(2)特許権の使用を他人に許諾する又は特許権を他人に譲渡する場合、取得するロイヤルティ又は譲渡対価の10%以上を報酬として支払う。

大嶽 徳洋さん広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
中国深圳市福田区福華一路一号
大中華国際交易広場15階西区
電話:(86)755-8328-3652
メール : odake@yamatolaw.com

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