花樣方言 フォークロア

2017/02/14

フォークロア有隻雀仔跌落水
跌落水 跌落水
有隻雀仔跌落水
被水沖去

『ロンドン橋落ちた』の広東語の歌詞はこうなります。香港人なら誰でも知っている、古くからある訳詞です。落ちたのは橋ではなく、小鳥。水に落ちて、流されてしまいます。残酷な歌ですね。口頭伝承の童謡の類に意味不明と残酷は付きもの。この広東語歌詞もフォークロア的に見て、何かの意味が秘められているのかもしれません。民間伝承ではなく人工的にイミフな歌を作ったピコ太郎は確かにすごい。リンゴやパイナップルにペンを突き刺すのは、残酷?

『Are You Sleeping?』の広東語バージョン『打開蚊帳』もよく知られています。

打開蚊帳 打開蚊帳 有隻蚊 有隻蚊
快啲攞把扇嚟 快啲攞把扇嚟 撥走佢 撥走佢

蚊帳を開けろ、蚊がいるぞ、早くうちわを持ってきて叩き出せ。ブラザー・ジョンではなく、蚊。ロンドン橋以上の変わりようですが、蚊帳は寝るときにつるものなので「眠り」という路線は一応保たれています。元歌はフランスの『フレール・ジャック』。この歌ほど世界中の様々な言語で多様に歌われている童謡は、なかなかありません。キリスト教圏の地域ではジャックがヤコブ(北欧)になったり、ジョン(英)やイワン(露)になったり、マルティーノ(伊)やマルティニーリョ、サンティアゴ(西)になったりします。フレール(ブラザー。修道士のことです)が教皇やマイスターになったり、鐘の音も、ディンディンドンやディンダンドン(仏、英)、ディンドンダン(伊、西)、ビンバンボン(蘭)、キンコンカン(日)などなど、各々の地域性に合わせて果てしない広がり様。早起きすべき聖職者が寝坊している非常事態(?)を歌った歌なのですが、蚊を防ぐべき蚊帳の中に蚊が入ったのも非常事態。キリスト教圏外の地域になるとキリスト教色が消え、歌詞はほとんど替え歌に近くなります。広東語圏以外の中華圏では次のようなものが主流です。

兩隻老虎 兩隻老虎 跑得快 跑得快
一隻沒有眼睛 一隻沒有尾巴 真奇怪 真奇怪

2匹の虎が速く走っていて、1匹には目玉がない、もう1匹にはしっぽがない、ほんとに奇怪だ。本当に、奇怪な歌で、地域によって目のかわりに耳や頭がなかったりします。口頭伝承の歌のセオリー通り、イミフと残酷、この2点はちゃんとクリアしています。

だるまさんが転んだ。転ばないはずのだるまさんが転んだのだからこれは超非常事態。この種の遊びは世界中にあって、やはり、申し合わせて意図的にそうしているかのように、となえるフレーズが地域ごとに違っています。香港では、

一二三紅緑燈 過馬路要小心

後半部はよく省かれて、最近は前半の6音節だけ。日本では10音であることが大切で、関西バージョン「ぼんさんがへをこいた」など、やはりバリエーションが豊富(達磨さんも本来、坊さんですけど)。しかし残念なことに、ここには書けないような、ヤバいものが多いのです(民俗学が扱う大衆文化の「民俗資料」(folklore data)とは本来そういうものです)。宮崎の「キャベツの運動会」、名古屋の「寿がきやのやきうどん」、仙台宮城の「くるまんとんてんかん」、これらは超ローカル版。香港が「紅緑燈」(信号機)なのは英語圏の「レッドライト・グリーンライト」の影響でしょうが、こういうところにも香港の国際性、文化の折衷は見て取れます。「1、2、3」と数えるのはヨーロッパでは普通で、フランスは「123ソレイユ(太陽)」、イタリアは「123ステラ(星)」、オランダはピアノ、メキシコはカラバサ(カボチャ)。香港以外の中華圏で多いのは「一二三木頭人」。中国大陸にも意外と古くからヨーロッパの通俗文化は入っていて、高齢のお年寄りのほうがよく知っていたりします。

♪たんたんたぬきの~、が昭和初期の流行歌『タバコやの娘』の替え歌であることをご存知でしょうか。♪向こう横町の煙草屋の、可愛い看板娘~。そしてこの歌は更に、明治初期に日本に入ってきた讃美歌『まもなくかなたの』が元歌なのです(冒涜ですね。修道士や坊さんをおとしめるのも)。ロンドン橋の広東語版は最後の「去」が「水」と韻を踏みます。たんたんたぬきの~も、

か~ぜもないのにブ~ラブラ
は~らをかかえてゲ~ラゲラ

韻を踏んでいます。民間伝承にはイミフと残酷、冒涜のほか、押韻や、「しも」というアイテムがあります。

大沢ぴかぴ

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