中国法律コラム16「住宅積立金のコストを抑えることができるか?」広東盛唐法律事務所

2017/03/21

中国人は住宅に対する執着心が非常に強いため、国家は国民の多くが自己の住宅を持つことができるよう住宅積立金制度を実施しており、本人の前年度の平均賃金に一定の率(会社負担及び個人負担各々5~20%)を乗じて得た金額の住宅積立金を毎月積み立てるように強制しています。しかし、昨今、広東省においては、労働コストの上昇が製造業への大きな負担となっており、住宅積立金のコストを抑えるために、任意選択性としたい又はその計算基数を低く抑えたいと考える使用者も少なくありません。そこで、今回は、①住宅積立金の積み立てを任意選択性とすることができるか、及び②積み立て金額の計算基数を低く抑えることができるかという2つの問題について検討したいと思います。

一、参照法令
1、《深圳市住宅積立金管理暫定弁法》
第16条(積立開始時期)
住宅積立金の計算基数は、従業員本人の前年度月平均賃金とする。

第21条(積立方法)
従業員個人が納付する住宅積立金は、毎月の賃金から源泉徴収にて積み立てる。使用者は、適時、毎月、満額に、使用者負担分及び従業員負担分の住宅積立金を積立なければならない。

第43条(積立登録手続き等の不履行に対する処罰)
使用者が、規定に従い使用者が住宅積立金の積立登録の手続きまたは従業員のために住宅積立金口座の開設手続きを行わない場合、住宅積立金管理センターは、「住宅積立金管理条例」第37条に従い処罰する。

2、《住宅積立金管理条例》
第37条(積立登録手続き等の不履行に対する是正命令等)
本条例の規定に違反し、使用者が住宅積立金の積立登録の手続きまたは従業員のために住宅積立金口座の開設手続きを行わない場合、住宅積立金管理センターは期限を定めて是正を命じる。期限を過ぎても手続きを行わないときは、1万元以上5万元以下の過料に処する。

二、法的分析
1、使用者は、従業員全員のために住宅積立金を積み立てる義務、及び従業員の自己負担分を源泉徴収のうえ代理納付する義務を負います。住宅積立金は従業員の享受できる権利であると同時に、従業員及び使用者の法的義務でもあります。

2、住宅積立金の計算基数は、本人の前年度の月平均賃金です。これを基本給ベース、最低賃金ベースとするなど引き下げることは違法行為です。

3、使用者が一部の従業員を住宅積立金制度に加入させない、又は計算基数が法定の基準を満たさない場合に、従業員が住宅積立金管理センターなどの行政機関に告発をしたときには、行政機関から調査される恐れがあります。行政機関は、従業員全員のために住宅積立金を積み立てていない、又は計算基数が法定の基準に満たないと認定した場合、まずは期限を定めて是正を命じます。使用者が期限内に是正をした場合には、過料などの行政処罰が科されることはありません。また、追納を命じられるリスクもあります。追納の範囲は告発した従業員に限られる場合もありますし、全従業員を対象とされる可能性もあります。行政機関の要求に従い是正や追納をしない場合、過料に処され、かつ、追徴金を徴されるリスクがあります。

三、まとめ
前述の法令法律規定に基づき、住宅積立金を任意選択性とすること、計算基数を基本給ベースとするなど法定の基準を下回るものとすることは法令に違反するものであり、一定のリスクが存することとなります。従業員の告発がなければ、行政機関は積極的には干渉しないものと考えられますが、従業員が行政機関に告発をした場合には、行政機関(住宅積立金管理センター)に是正を命じられる可能性があります。是正命令を受けた場合、適時に行政機関と折衝を行い、適切に是正する積極的な姿勢を見せれば、過料などの処罰に処せらることはありません。なお、中国の実情に鑑みて、多くの使用者が全ての従業員については住宅積立金に加入していない、計算基数を基本給ベースなどに引き下げている状況が多いことからも、行政機関は他社に与える影響を考慮して、積極的に、厳しく取り締まる蓋然性は低いと考えます。

大嶽 徳洋さん広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
中国深圳市福田区福華一路一号
大中華国際交易広場15階西区
電話:(86)755-8328-3652
メール : odake@yamatolaw.com

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