新しい事を始めた人、始めた事特集 Part 5

2018/06/25

香港でクラゲを養殖する 吉田俊広さんの

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新しい事を始めた人
吉田 俊広さん

始めた事
香港でクラゲの養殖

 

 

PPW:まず、吉田さんの自己紹介をお願いいたします。

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吉田:はい。私が香港に来たのは4年ほど前で、現在、イギリス人、アイルランド人のパートナーと、熱帯魚や海水魚用の水槽の設計、製造、設置、メンテナンス等を行う会社を経営しています。顧客は、レストランやホテル、ショッピングモール、水族館などで、モントレーベイ水族館や、リゾートワールド・セントーサ、香港オーシャンパーク、新・江の島水族館などとも取引をさせて頂いております。地元は北海道の十勝で、高校までを地元で過ごし、大学から上京、創価大学工学部生物工学科に進学しました。4年生と修士課程の時には、大学で唯一海洋生物の研究をしていた戸田研究室に所属し、3年間みっちり鍛えられました。教授が怒ると本当に恐ろしく、まさに落雷のようで、私は、その落雷を最も落とされた学生の一人であったことを自負しております。今でも戸田教授とは交流があり、共同研究の打ち合わせで、私の会社に来てくれたりもします。当時はどうしようもない学生の私でしたが、今は、一緒にプロジェクトを進めていけることをありがたく思っております。

 

PPW:学生時代の事をもう少し教えてください。

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吉田:修士課程時には、1年間名古屋港水族館に泊まり込みの研究をして、現在の仕事の素地となる経験をさせていただきました。修士課程の修了後は、就職をしようと考えていましたが、戸田教授の勧めもあり、オーストラリアのタスマニア大学の博士課程に進学することにしました。ありがたいことに学費免除と、生活費支給という2つの奨学金をいただくことができ、博士課程の5年間はほぼ自分のお金を使うことはなく、2009年に無事にタスマニア大学から海洋生物学の博士号を取得することができました。タスマニアは南極に近いのでオーストラリアの南極研究の拠点になっています。私も当時の研究で3か月の南極調査航海に参加しました。初めて行った南極の印象は、言うまでもなく大変寒いのですが、思っていたよりもアザラシやペンギン、アホウドリなど動物が多い事に驚きました。また、船員さんたちがとても親切で、調査に支障がない範囲で、動物たちに船を近づけてくれたり、時間のある時にはデッキでバーベキューをしたり。日本の調査船だと考え方が固いので、こういった経験はできなかったかもしれませんね(笑)。卒業後の就職は自分の好きな生き物の飼育と、研究の両方ができるところがいいと思い探していたところ、マカオのホテルで水族館の起ち上げの仕事を見つけ応募、無事に合格し、翌年2月にマカオに来て、仕事を始めました。

 

PPW:マカオのホテル内の水族館なんて、すごい資金が掛かっていそうですね。

吉田:はい。就職をして1年目は施設の起ち上げだったこともあり楽しかったのですが、2年ほどしたころから、仕事はほぼ毎日ルーティーンになり、上司との関係もあまりうまくいかず、仕事に行くのが苦しくなりました。飼育の経験や知識が乏しいマネージメント層と、何年間も生態調査や飼育の経験がある現場の私とで摩擦が絶えなかったのです。その為、転職活動もしましたが、条件が合うところが見つからず、結局、当時の同僚の誘いに乗り、2014年、香港で水槽設計販売の会社を起ち上げました。

 

PPW:そして、今回の特集テーマである新しい事を香港で始められたのですね。

吉田:そうなんですが、現実は思った以上に厳しかったです。まず、初めの3か月間は事務所に寝泊まり。オフィスの床に布団を敷いて寝ていました。次に引っ越した先は月4000ドルの4畳ほどの部屋。アパートの隣はバーでしたが、入ってお酒を飲む余裕は全くありません。マカオ時代に毎日飲んでいたのが夢のようです(笑)。コンビニに入るのにも、財布の中身を確認してから入るというような生活をしていました。

 

PPW:今は事業も軌道に乗り出して、世界中から取引の依頼が来ていると伺いました。

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吉田:冒頭でも紹介しましたが、現在では世界中の多くの水族館と取引があります。水族館は全体の顧客の半分くらいで、残りはプライベートの会社です。初めはパートナーと2人で会社に寝泊まりして始めた会社でしたが、今では私たちを含めて7人のフルタイムのスタッフがおり、パートタイムを含めると10人のスタッフがいる会社に成長しました。去年の春には香港島にオフィスを移転、広さも倍以上になりました。大学や研究機関への飼育施設や技術の提供、共同研究も増えてきました。去年、母校である創価大学との共同研究が決まり、今後月1で東京に戻り、学生とともに動物プランクトン専用の飼育システムの開発を行います。また、現在、オーストラリア政府が新しい南極観測船を建造中なのですが、その中に入る研究用の飼育施設のマネージャーが私のオーストラリア時代の同僚で、まだ決定ではありませんが、施設の設計と製造を依頼されています。もしこの仕事がうまくいけば、新しい南極観測船の処女航海には、是非飼育の専門家、水槽施設のテクニシャンとして、調査に参加させていただきたいですね。このようにお世話になった創価大学とオーストラリアに恩返しができる立場になれたことは本当にうれしいことです。また、さらに今年は、中国のあるショッピングモール内で、小規模の水族館の設計、設置、運営まですべてを任されることになりました。私たちの会社にとっては新しい挑戦です。現在、様々な専門家の方に話を聞き、準備を進めているところです。

 

PPW:この事業で大変な事は何ですか?

吉田:世界でクラゲを養殖している企業は、恐らく3、4つくらいしかありません。クラゲをペットとして飼うという市場もまだまだ発展段階です。クラゲの生態があまりよく解明されていない事が原因のひとつですが、私でさえもちょっとした原因で出荷直前に出荷依頼の半分を死なせてしまうこともあるくらい、クラゲの扱いは難しいです。苦労して育てたクラゲたちがある日突然死んでしまった時は、本当に泣きたくなりますね。また、生き物ですので、毎日誰かが会社に行って餌やり 等を行わなければならず、スタッフが増えたとはいえ、私が土日も仕事をしていることが多いです。

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PPW:今後の展望とクラゲの魅力を教えてください。

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吉田:クラゲの魅力とは、ひと言でいうと「癒し」だと思います。LED照明によって半透明な体が様々な色に照らされたり、7色に光を反射するクシクラゲの櫛板など、その美しさに癒されます。また、クラゲは人間が生まれるずっと以前から、海に誕生してあの拍動を繰り返してきました。一定のリズムで拍動を繰り返しながら漂うクラゲを見ていると、私たちの心臓が拍動しているように生命のリズムのようなものを感じ、癒されるのではないかと私は考えています。また、クラゲは脳がないので、当然何も考えていません。面白いことに、何も考えていない生き物を見ていると、こちらも何も考えずにいられるものです。忙しい現代に生きる私たちに、クラゲは何も考えない時間を与えてくれます。クラゲの癒しに関して医学的研究があるくらいです。最後に弊社のこれからの展望ですが、まずは今後より多くの水族館やホテル等に水槽や飼育技術を提供できるようになりたいです。弊社が提供した水槽やクラゲを見て楽しんでいる人たちを見ると、とても幸せな気持ちになります。クラゲの養殖分野では、さらに多くの種類のクラゲを繁殖できるようになって、世界中の研究者と共同研究をしたいですね。クラゲはまだわからないことが多く、研究をしていけば人類に役立つ大きな発見があるかもしれません。弊社の飼育技術をさらに磨いて、研究分野でも貢献していけたらうれしいですね。

PPW:ありがとうございました。

 

 


吉田俊広さんプロフィール
2010年オーストラリア、タスマニア大学にて海洋生物学の博士号取得し、マカオのホテルでクラゲ水槽の管理責任者となり、クラゲの魅力に出会う。その後、香港に渡りクラゲ養殖や専用の水槽を製造販売する会社を起業。家庭用水槽の製造・販売を行なうブランド「Cubic Aquarium Systems」、クラゲの繁殖と販売を行なうブランド「Exotic Aquaculture」、特注水槽の設計、製造を行う「Redfin Aquarium Design」を運営し、多くの水族館や海水魚卸業者にクラゲや水槽を提供している。
ウェブ:www.sanderia.com
販売元はエムエムシー企画レッドシー事業部
ウェブ:www.mmcplanning.com

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