ECO特集~人と環境について考える~ Part 5

2018/10/10

環境事業に取り組む女性社長、栩川氏に聞いた地球温暖化ガスの排出権ビジネスとは?

 

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栩川 恭子(とちかわきょうこ)さん
オーストラリア シドニー大学 化学工学部卒業。三菱証券を経て2005年、結婚を機に来港。2008年4月に香港で「Carbon Partners Asiatica」を設立。香港法人とタイ法人の代表取締役。環境事業のほか、ヘア・ネイル・アイラッシュの複合型サロン「Carte Blanche」(香港尖沙咀)、姉妹店のネイル・アイラッシュ複合型サロンを東京目黒にて運営。趣味は猫とワイン。

 

 

まず、貴社の事業を教えていただけますか?

大きな枠で言うと温暖化緩和策のお手伝いで、主に再生可能エネルギーの運用から得られる温暖化ガス(温室効果ガスとも言われる)削減量の「排出権」化、そして収益化です。温暖化とは二酸化炭素をはじめとする大気中にある温暖化ガスの濃度が増すことで、大気圏にこもる熱量が上がり、海面温度の上昇や台風の規模拡大など異常気象とも呼べる気候変動のことを指します。日頃、私たちが目にしているスモッグと呼ばれる大気汚染物質や河川の汚染は局地的で、各地域規模で削減に取り組まれていますが、温暖化ガスは世界的に影響を及ぼすため、「国連気候変動枠組条約」という形で国連機関が世界的な削減努力を主導しています。「京都議定書」や「パリ協定」などは皆さんもよく耳にするのではないでしょうか。

当社では同条約に基づき、このガスの削減を義務付けられた企業の目標達成を間接的にお手伝いしております。

 

具体的にどういったサービスをご提供されているのでしょうか?

温暖化対策と言っても、緩和策、適応策、国際・国内政策、売手・買手企業、排出権仲介、投資、コンプライアンス市場、ボランティア市場など様々な役割があります。当社はこの中でコンプライアンス市場における温暖化ガス削減努力(いわゆる緩和策)の「排出権」化を手掛けており、政策面に関する国際機関へのコンサルティングも提供しております。

ミャンマー環境省との合同セミナーにて

ミャンマー環境省との合同セミナーにて

前者を少し掘り下げると「国連気候変動枠組条約」の締約国(2017年10月現在、欧州連合を含め197カ国)は、国ごとに温暖化ガスの削減目標が合意され各国政府が持ち帰ります。それを各国内で細分化する際、同ガスの排出機会の多い電力、セメント、鋼鉄、運輸といった分野を中心にノルマが課されます。この殆どを国内努力で達成しなければならないのですが、一定量まで国外で達成された削減の譲渡が可能なので、譲渡先の企業はその分はノルマを超えても排出し続けられる権利を持ちます。この譲渡できる削減量を「排出権」と呼びます。なぜ国外から購入するかと言うと、既に産業が省エネ化されている先進国と安価な機器を使って急成長中の途上国では、同じCO2の削減量を達成するコストが大きく異なる為です。私どもはそういった産業状況も組み込んだ排出権を算出する「方法論」を国際連合に提供したり、一般企業向けに算出代行を請け負っております。最終的には国連承認案件から得られたこれら排出権は有価で売買されます。

また、再生可能エネルギーの運用については、太陽光発電などの他にも、農業案件が挙げられます。例えば、家畜の糞尿には(おならにも)温暖化ガスが多く含まれていますので、これらを回収・処理し、発生したメタンガスをガスタービンに送り込んで発電することもできます。きちんとした処理施設を有するところに発電設備を加えるのか、川に垂れ流していたところに処理施設を導入した上で更に発電設備を加えるのか、また、ガスが発生しやすい飼料を食べているのかなど、各国の環境基準や農業運営状況によって再生可能エネルギーの生産量や収益化できる削減量も異なるので、最適化の為のコンサルティングから始まります。現在は香港の大手電力会社をはじめ、日本、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、ミャンマーの各企業、そして国際機関へのサービス提供をしております。

 

どういったきっかけで環境事業に取り組み始めたのでしょうか?

父が大型石炭火力に従事していた事もあり、5歳の時に家族でオーストラリアのMuswellbrookという人口2万人弱の町に移り住みました。アジア人は近所の中華料理店を営む家族のみで、日本人としては当然私たちが初。現在では状況も異なりますが、当時は夏休みになると、父がプロジェクトを手掛ける発電所によく連れて行かれ、工事がないときに巨大タービンを見学させてもらってました。その後に一度帰任し、再度渡豪。17歳で日本に戻る予定だったのですが…なんと!父が帰国生入試の手続きを忘れてしまい、「大学を卒業するまでオーストラリアで過ごせ」のひと言で、父一人で帰任してしまいました笑。結局シドニー大学の工学部に入り、環境工学も少しかじったので、それが今に繋がっていると思います。卒業後は、縁あって日本国内の証券会社に進みました。当時の上司がとてもユニークな方で、はるか昔のアメリカ駐在時代から企業の社会的責任(CSR)に興味を持たれ、副社長を退くと同時に社内にチームを設立。女性の社会進出にも熱心だったので、とても多くのことを学ばせてもらいました。その数年後に上司に誘われ、気付いたら数人の同僚と共に二人で独立し、あれよあれよとタイ法人、インドネシア法人を設立していました。振り返ると「そりゃないだろ」ということも多々ありましたが、おかげで本当に濃い10年を過ごさせてもらいました。

 

今後、香港や中国はじめ、東南アジアでの環境への取り組みはどう変わっていきますか?

先述した通り、温暖化対策には色々な側面があり、それぞれの動向は当然異なります。しかしながら、大枠で言うと、環境への取り組みがより多くなっていくのは必然です。目に見える環境汚染(河川への垂れ流しやスモッグ)に関しては、中国や東南アジアで経済発展が続く中、それまで「衣住食が有るだけで有り難い」というベースから、生活の質や健康へと目線が移っていきます。かつての日本同様、経済発展を遂げる中で企業側に対策が求められ、各国政府も環境基準の見直しなどの対策を迫られます。グローバル規模の温暖化対策については、業界内のコンセンサスとまでは言えませんが、個人的には数年で転機を迎えると思います。これには2つの理由があります。まず、国連の取り決めにより、2020年から削減目標を課される国が大幅に増え、排出権の需給バランスが大きく変わります。これまで自社内で削減目標が達成できなくても安価に国外から購入できた排出権が突然干上がってしまうわけですから、買手側の主に欧州の大手電力会社が危機感を抱き、再生可能エネルギー案件を今まで以上に押し進めるでしょう。国外の排出削減も国によっては持ち帰ることが可能ですので、アジアにも影響はあります。また、2012年頃から値崩れした排出権の価格も持ち直して「排出権がこの程度の価格なら、設備投資が取り返せるから早めに機器を入れ替えよう」といったように売手企業も活発化します。もう一つは、温暖化の影響が目に見えてきたこと。そして、その経済ダメージが甚大になってきたことです。一概に温暖化と言えば、気温が暑くなり、北極の氷が溶け、海水が上昇する程度に思われがちですが、温暖化の行きつくところは気候変動(異常気象)です。海水温の上昇による台風の大型化や北上などがその例で、気候変動のどれ程が人為的なのか、今になって緩和策程度で改善できることなのかは定かではありません。ただ、「そんな細かいことでゴネてる場合ではない、やれることをやらなければ」という風潮になりつつあります。

 

最後に貴社のビジョンについても教えてください。

とにかく発電が好きで、いずれは社として小さな発電所を建設したいと思っております。ただ、まだ先になるかと思いますので、現在は携わっている案件への投資誘致に注力したいと考えています。排出権は国連承認案件を建設・稼働し、第三者機関の監査を経て、国連に再承認された後に初めて発生します。この時点で譲渡と金銭のやりとりが可能になります。つまり排出権によって収益性はアップしても、資金繰りには役立ちません。申告した時点でお金がもらえるのではなく、きちんと結果と紐づけられているので、それは良い仕組みではありますが、これだと経営体力のある企業もしくは補助金が付く数少ない企業しか参加できません。初期費用が出せずに優良案件が塩漬けになっていったのを数多く見てきたので、微力ながらこういったケースを解消する為にも顧客への投資誘致に力を入れております。業務内容は徐々に変化してきていますが、一つでも多くの案件の「実施・稼働」に貢献するという従来のビジョンは変わりません。

取引先の水力発電所における国連第三者機関の監査入りサポートにて

取引先の水力発電所における国連第三者機関の監査入りサポートにて

 

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