目から鱗の中国法律事情 Vol.26「中国に贈与税がない理由」

2018/12/12

 

贈与税とは何か

贈与税とは、何かしらの財産を無償で他人にあげた場合、もらった人がその財産について支払わなければならない税金をいいます。なぜ、無償の行為にまで税金がかかるのでしょうか。これは「相続税を補完するため」と説明されています。

相続税については、皆さんもご存じだと思います。誰かが死亡した時に、その人が持っていた財産を受け取った人が納めなければならない税金です。もし贈与税の制度がなければ、「自分は死が近い」と悟った場合に、生前に財産を「贈与」しておけば、それは「相続」ではなくなるため、税金の対象外ということになります。このような問題を防ぐために、死者が出ていない場合の財産の移動にも税金をかけることにしたのが贈与税です。

 

 

中国には贈与税制度はない

贈与税に関する知識は、中国ビジネスを行う場合にも必要です。ところが、中国には贈与税と相続税の制度は導入されていません。今回、これはなぜなのかを説明しましょう。

そもそもなぜ、相続税制度と贈与税制度は必要なのでしょうか。労働によって収入を得れば当然、所得税の対象になります。ならば、労働が理由でなくても、例えば親族の死が原因の収入についても課税するのは当然のことといえます。また、資産家の子がまた資産家になるという「富」が継続していくことを防ぐことも相続税制度の存在理由の一つと言われています。

 

 

中国が贈与税制度を否定する理由

この相続制度の存在理由に対して、中国は以下のような理由からこれを否定しています。①中国は社会主義国家であり、私有財産制を認めていないこと。②社会全体で富の分配ができているという社会主義思想からその必要がないこと。中国憲法第13条(公民の合法的私有財産は侵されない。国家は法律により公民の私有財産権と相続権を保護する)で、現在は私有財産を認めているようにも見えます。しかし、学説ではこの条文を「私有財産制を直接認めたわけではなく、政府が私有財産制を認めるよう努力することを宣言したものである」と考えています。まとめると、社会主義国家に贈与税制度や相続税制度はそぐわないものなのです。

しかし、「他者の死」による収入を否定しても、中国でも「労働」による収入は課税しています。ここには論理矛盾があるようにも見えます。そして、中国の著名な税法学者も「中国は経済発展し、富の偏りが発生している。相続税制度の整備を急ぐべきだ」と述べています。近いうちに、中国でも相続税制度、さらにはそれを補完する贈与税制度が導入される可能性もあると思われます。

 

 

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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