目から鱗の中国法律事情 Vol.38

2019/12/11

中国の労働組合(工会)その2

前回は、中国の労働組合(工会)は市民の政治参加の手段であったことと、全ての事業体が国有であるため、真の雇用主は国家であるため、社長(董事長)も工会に加入できると説明しました。今回はこの続きです。

工会の労働者保護?
 会社の社長も工会に加入できるということは、労働者の権利が社長に侵害されている場合、工会VS社長という図式が成り立たなくなります。社長も工会内に位置しているからです。では、労働者の権利をどのように保護するのかというのかというと、「労働者と社長双方を説得する」というのが工会の労働者保護のための方法です。
社長が工会内にいるために、対立構造は作れず、双方を説得し、双方が納得させる点を見つけるのが工会の労働者保護のための方法なのです。これは当然に労働者サイドが説得させられ実際には労働者側の権利の主張が全く実現しない場合もあります。このため、工会は労働者の権利を代表しているとは言えず、日本のような強力な労働者保護を打ち出すことはありません。

これも、中国の社会体制が日本と大きく異なることが原因です。中国は社会主義国家であり、労働者や農民の権利を代表する共産党の指導で国家が動いています。すると、労働者や農民の権利を代表する共産党の指導によって動いている国家が全ての労働者を雇っているのだから、労働者の権利が害されるはずがないという発想になるのです。このため、中国には労働者の権利が侵害される場面は存在しないはずであり、労働者保護をそこまで掲げる必要はないということになるのです。
このため、工会のこの機能は「労働者の保護機能」というよりも「労働者と社長の利益調整機能」と言われることもあります。

団体行動権の否定?
 先に述べたような、労働者の権利が害されるはずがないという前提の下では、ストライキ権(団体行動権)も否定されることになります。労働者に不満はないはずだからです。事実、これまで長らく中国ではストライキ権は否定されてきました。しかし、最近は労働者の権利が害されることも多く、ストライキ権は「正面から認められてはいないが、禁止もされていない」という位置にあると解釈されています。
しかし、明確に「禁止」にはなっていなくても、中国でストライキはいまだグレーゾーンの行為であるということです。

(続く)

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員

中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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