目から鱗の中国法律事情 Vol.41

2020/03/11

中国の債権譲渡(契約の譲渡・債の移転) その2

 前回は、中国の債権譲渡(契約の譲渡)の話題の中から、債権譲渡の説明と、中国ではなぜそれを「契約の譲渡」と呼ぶことがあるのかという話をしました。今回は、債権譲渡の方法について見ていきましょう。


P30 Lawyer_731債権譲渡(契約の譲渡)の方法――性質上譲渡できない債権
 それでは、債権譲渡とはどのように行うのでしょうか。まず、債権譲渡が禁止されていない債権であることが必要です。中国の契約法(中国語原文は「合同法」)第79条は、以下のように規定しています。「債権者は契約の権利の全部または一部を第三者に譲渡することができる。ただし、以下の一つの状況に該当する場合を除く。(一)契約の性質上譲渡できない場合、(二)当事者の約定で譲渡しないとした場合、(三)法律の規定により譲渡できない場合」。契約の性質上譲渡できない場合とは、一身専属権と呼ばれる「その人でないとその義務が果たせない債権」などを指します。例えば、ある芸能オーディションに合格して最終審査に出場する権利を持っていた人がいるとします。その人が「最終審査に出場する権利を他人に譲渡した」と言ったらどうなるでしょうか。芸能オーディションの審査は本人以外が出場しても何の意味もありません。このように、本人以外が権利行使することに意味がない場合などを「性質上譲渡できない場合」としているのです。

 

当事者の約定で譲渡できない債権
 次に、「当事者の約定で譲渡しないとした場合」ですが、これは当事者間で最初に「この債権は譲渡しない」と約束したのだから、その約束は守らなければならないということです。当事者間で譲渡しないと約束した債権を譲渡しても原則として無効となります。では、債権を受け取った第三者が、その債権が譲渡禁止の約束がなされていた債権であったと知らなかった場合はどうなるのでしょう。日本ではこのような債権を譲り受けた者が「知らなかった」場合には、その債権は譲渡できることになっています(日本の民法第466条第2項ただし書き)。
 しかし、中国にはこのような場合にどのように取り扱うかについては条文がありません。一応、学説上日本と同様に債権の譲受人が譲渡禁止の約束を知らない場合は債権は譲渡できると考えている学説もありますが、条文上は基準がないという点は重要です。中国では、裁判結果が別の事件に法解釈の拘束力を持たず、その場その場で異なる判断がなされる場合があるからです。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

 

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