尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.19

2020/04/15

賃貸借契約の注意点

 中国でオフィススペースを賃借しようと考えている場合、中国の賃貸借の法律や制度のどのような点に注意したらいいでしょうか。

 

 中国では、建物賃貸借契約を締結した後30日内に、建設(不動産)主管部門に登記届出をする必要があります。契約更新の際にも、同様に登記届出をする必要があります。ただ、賃貸借の登記をしなくても、賃貸借契約が無効になるわけではありません。
 では、賃貸借の登記をすると、どのようなメリットがあるのでしょうか。賃貸借の登記は、賃貸物件が二重に賃貸された場合にどちらが優先するか判断する際の1つの判断要素になります。
 二重賃貸は、借主が賃借した物件を、貸主がさらに別の借主に賃貸してしまったような事案です。
 このような二重賃貸借の事案では、以下の順番に従って優劣が決められます。

① まず、賃貸物件を適法に占有している借主が優先します。

② 次に、①で優劣が決められないときは、賃貸借の登記手続きを行った借主が優先します。

③ 更に、②でも優劣が決められないときは、賃貸借契約を先に締結した借主が優先します。

 

 このように、登記届出は賃貸借契約の発効要件ではありませんが、借主の賃借権を十分に守るためには賃貸借契約を速やかに登記することが重要です。賃貸借契約では、貸主に登記の義務を規定しましょう。そして、賃貸借契約の締結後は、なるべく早く登記することが必要です。
 なお、登記届出をせず、期限を限って登記するように命じられたにもかかわらず、登記をしない場合には、過料が課されますので注意が必要です。

 

 中国では、賃貸建物が譲渡される場合には、賃借人には建物を優先的に購入する権利が発生します。この優先購入権の条項は、賃貸借契約書の特約で排除されている場合もありますが、中国の賃貸借契約を理解する上で重要な概念です。

 

 賃貸借契約の期間中に、賃貸人の側から一方的に賃料を値上げすることは、法令上禁止されています。
 では、更新時はどうでしょうか。不動産価格の上昇が著しい中国では、更新時に貸主が大幅な賃料の値上げを主張してくることが少なくありません。
 更新時については、日本の制度との違いに注意が必要です。日本では借地借家法により、貸主は正当の事由がない限り、更新を拒絶できません。しかし、中国では、このような賃借人保護の規定はありません。
 そのため、当事者間に契約条件の合意ができなければ、賃貸借契約は更新されません。つまり、貸主が強硬な態度で賃料の値上げを迫ってきた場合、その値上げに同意して更新するか、更新せずに退去するかの判断を迫られることになります

 


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Profile Photo尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。

 

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