目から鱗の中国法律事情 Vol.46

2020/08/12

中国の全人代で民法が可決 その2

 中国の全国人民代表大会で5月28日に「民法」が可決されました。この意味について前回に引き続き見ていきましょう。

 

(Confirmed)751_中國法律事情民法の中に婚姻家庭法分野・相続法分野が!

 今回制定された中国の民法典は、総則、物権、契約、人格権、婚姻家庭、相続、不法行為責任および附則からなり、全1260条となっています。民法の中に、婚姻家庭法分野と相続法分野が含まれているというのは、実は非常に大きなことです。

 日本で民法というと、所有権や取引に関して規定している「財産法」分野と、家族や相続に関して規定している「家族法」分野があると考えています。しかし、中国では長らく「民法」とは「財産法」をいうのであり、家族法については民法とは別の家族法という独自の分野があると考えてきました。これは、中国が法律のモデルにしていたソビエト連邦での学説がそのようになっていたためです。実際に、これまで中国で「民法」的な内容について書かれた教科書などを読むと、「財産法」についてしか書かれておらず、「家族法」という別の教科書を読まないといけない場合が多くなっていました。

 しかし、今回の民法には「家族法」分野の規定もあり、長らく中国が取ってきた民法の他に家族法という分野があるという学説が立法によって否定されたことになります。これは中国がこれまで継受してきたソビエト連邦の学説からの脱却で非常に大きなことです

 

これまでの単独立法が廃止

 実は、中国では民法制定に先駆けて、総則編にあたる「民法総則」という法律を2017年10月1日から施行してきました。しかし、この時、それまで中国で民法総則的な内容を規定してきた「民法通則」は廃止されず、しかも民法通則と民法総則では異なる内容が規定されている部分もあり、問題となっていました。しかし、2021年1月1日に民法が施行されると同時にこれまでの個別の民法的内容を構成してきた単独立法が廃止されることも決定しました。

 これからは、中国で民事法の内容を確認するには「民法」のみを確認すればいいことになります。

 

日本民法とは違う!

 先ほど、「民法総則」は2017年10月から施行されていたと述べました。しかし、この「民法総則」でも、法人格を取得していない団体の民事活動を認めるとか、占有権の規定がない、所有権を認めても補償があれば公共の利益に応じて徴用が可能など、日本の民法とは異なる部分が多いという点は注意が必要です。今後、本連載でも中国民法を検証していく予定です

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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