中国法律コラム51 「住宅積立金の納付不足問題について」

2020/08/26

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 今回も、クライアントから寄せられた興味深い問い合わせについて紹介させていただきます。今回は、住宅積立金の納付に不足があるとして、従業員が住宅積立金センターに告発をしたという事件です。この事件について、従業員の要求事項とその適法性について解説させていただきます。

 

従業員の要求事項は、主に次の2点です。

① 住宅積立金を過少納付していたことにより、十分な住宅積立金を受給することができず、割高である通常のローンを組まざるを得なくなった。これについて、利息という損害が生じたため、これを損害賠償せよ。

② 住宅積立金の過少納付分を追納せよ。

 

一、損害賠償請求について

1、当該従業員は、会社が住宅積立金を満額で納付しなかったため、住宅購入の際に十分な住宅積立金を受給することができず、約23万元の住宅購入費用について利率が割高である通常のローンで借り入れざるを得なくなった。これにより、損害(利息)が6万元余発生したと主張しています。

2、関連の法令によると、住宅積立金が満額で納付されなかったことにより、利率が割高である通常ローンを借り入れなければならなかったとして、利息について損害として会社に対して賠償請求することには、法的根拠が欠けているといえます。したがいまして、当該従業員が法的手続きを通じて会社に損害賠償請求をしたとしても、労働仲裁がこの訴えを受理することはないと思われます。

参照法令:
《中華人民共和国労働紛争調停仲裁法》第2条
《広東省高級人民法院、広東省労働紛争仲裁委員会による《労働紛争調停仲裁法》、《労働契約法》の若干問題に関する指導的意見》第2条、第3条

 

二、追納について

1、住宅積立金管理条例によると、会社は従業員の前年度月平均賃金に基づき、住宅積立金の計算基数を確定しなければならず、会社と従業員の納付比率は、前年度月平均賃金の5%を下回ることはできません。住宅積立金を納付していないか、又は住宅積立金を満額で納付していない場合、住宅積立金管理センターが確認した後、会社に対し、期限内の納付を命じることになります。期限を過ぎても納付しない場合は、住宅積立金管理センターは人民法院に強制執行を申請することができます。

2、実務において、住宅積立金管理センターは、従業員の告発を受けた場合、会社と従業員の住宅積立金の納付状況を確認したうえで、会社に期限内の是正を命じる告知書を発行します。会社が期限までに住宅積立金を納付しなかった場合は、住宅積立金管理センターは、催告手続を行った後、人民法院に強制執行を申請しています。

3、原則、住宅積立金の追納が認められるのは、従業員の入社した月までですが、住宅積立金管理条例が施行された1999年4月以前の分については追納は認められません。

4、住宅積立金管理センター及び人民法院のウェブサイトを調査したところ、住宅積立金センターは、従業員が過去の住宅積立金の追納を求めることを奨励しており、追納に協力しない会社に対しては、人民法院が強制執行を行った事例も多く紹介されています。

 

三、まとめ

1、通常ローンを組んだことによる利息を損害として賠償請求することについては、法的根拠が無いため、会社がこれを賠償する必要はありません。

2、住宅積立金を満額納付していない場合に、従業員が住宅積立金管理センターに告発したとき、住宅積立金管理センターは期日を定めて是正、追納を命じることになります。期日までに追納を実施しない場合、住宅積立金管理センターは法院に強制執行を申請することができます。

3、住宅積立金管理センターに確認したところ、従業員は入社日以降の住宅積立金を追納するよう求めることができますが、住宅積立金管理条例施行前(1999年4月以前)については追納を求めることはできません。

以 上

 

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ddd広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問

大嶽徳洋  Roy Odake

行政書士
東京商工会議所認定
ビジネス法務エグゼクティブ
Tel:(86)755-8328-3652
E-mail:odake@yamatolaw.com

中国の法律事務所で10年以上の実務経験を有しています。
得意分野は、労働法・会社法・契約法です。
法律関係でお悩みのことがありましたら、お気軽にご連絡ください。

九州出身、趣味は卓球です。
深圳市で日本人卓球クラブの代表を勤めております。
卓球が好きな方は、ぜひお気軽にお声掛けください。
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