メディポート健康コラム:病気の名前が変わる

2024/01/03

長年慣れ親しんだ誰もが知る病気の名前が変わることになりそうです。皆が何も意識せずに使っている病名であっても、実はその病気の当事者にとってはとても不快に思ったり、あるいは抵抗感があったりすることが分かってきたのがその一因です。またその患者を無意識に差別してしまいかねない場合もあるなど、たとえ社会に浸透している病気の名前であっても、時としてその変更を迫られます。また、病名が医療の現場で使われている場合であっても、その病態が名前と乖離していて本来の臨床的な意味が分かりにくくなっているケースもあって病名変更が必要になる場合もあります。その代表が誰もが知る「糖尿病」です。

糖尿病
患者やその予備軍は日本だけでもおよそ2000万人もいると推定されており、その数は今も増え続けている非常に身近な病気が糖尿病です。誰もが特に躊躇することなく「糖尿病」と呼んでいる病気ですが、糖尿病と診断された患者は、その名前に対するイメージで不快な思いをしていることが多いというのが最近の調査でわかりました。また、尿の問題ではなく血液の糖代謝の問題であってその正確な病態を反映していないという理由から、糖尿病という名前を英語のダイアベティスに変更するという意見が日本糖尿病協会より提案されました。しかし、専門の医師からは糖代謝異常、高血糖症、あるいは高血糖症候群といった候補が出されており、漢字(日本語)の方が良いという意見が多いようです。ダイアベティスではますますそのイメージが遠のいてしまうと個人的にも考えますし、患者は「なんだか厄介な病気になってしまった」とイメージしかねません。今後1~2年かけて審議され、新しい名前が決められますが、分かりやすく日本語の名前に落ち着くことを期待したいものです。
ちなみにこの病気は古く中国から伝えられた「消渇」、そして明治時代に入ってからは「糖血病」などと呼ばれていたそうです。糖尿病と一般的に呼ばれるようになったのは大正時代に入ってからだそうです。

痴呆症⇒認知症
痴呆症という呼び方は患者に侮蔑感を覚えさせてしまい、さらに正確な病態が一般の人々に理解され難いということで、日本老年精神医学会の「痴呆名称に関する検討委員会」で名称の変更が検討されました。厚生労働大臣が名称変更の要望書を受け取り2004年に「痴呆に替わる用語に関する検討会」を開催して「認知症」という呼び方を提唱するに至り、それ以降は痴呆症という名前は少なくとも医療現場では一切使われなくなりました。当時、高齢化が大きな問題であるとはまだ考えられていませんでしたが、その後の平均寿命の急速な延びとともに認知症患者が激増しており、名称変更は良いタイミングだったと思われます。ただし、認知症は多くの臨床的要素を含んでおり、病名ではなく状態を指す言葉であるという医師もいることを付け加えておきます。

成人病⇒生活習慣病
成人病は1955年ころから当時の厚生省が使い始めた名称で、加齢とともに発症しやすくなるがん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病などの非感染性疾患を総称したものでした。成人病という名称は、成人であれば誰もが罹患の可能性がある病気を一般的な病名として定着させていたのは事実です。しかし近年、これらの病気の発症年齢が下がるとともに、飲酒・喫煙、食生活や運動など長期にわたる生活習慣が原因となると捉えた方が良いと考えられるようになりました。さらに小学生で発症する事例が多数報告されたのは衝撃的であり、このことも名称変更を後押ししました。このように成人病という名前が実態に合致しなくなり、1997年より厚労省はこれを「生活習慣病」と改めました。

精神分裂病⇒統合失調症
これも分裂病という名称が病気の本質を正確に表現していないことや、この名前から被る患者の不利益が問題となって2002年に名称変更され、以後、精神分裂病という名前はまったく使われなくなりました。この名称変更も英語名をカタカナにしたスキゾフレニア、その名付け親であるオイゲン・ブロイラーの名前と近代精神医学の父エミール・クレペリンの名前を合わせたクレペリン・ブロイラー症候群、そして統合失調症(統合失調反応)といった名前が候補として挙げられましたが、結局、漢字の方が馴染みやすいなどいくつかの理由によって統合失調症が採用されました。候補に挙がった英語名では日本人にとって全く受け入れられないのは容易に想像できるので当然の結果です。精神科領域では躁うつ病という病気がありました。これは双極性障害と呼ばれるようになるなど、特に精神医学の問題は、病態をつかみにくく病気の研究が進むにつれて病名が変わる可能性が大きいものです。

病名はその症状などを外面的に判断して付けられることが多く、それで患者を傷つけている場合も少なくありません。またそのイメージが独り歩きしてしまうこともあるので、本来慎重に扱わなければいけないものです。個人的には、一般に分かりやすい名称で、しかも病態を正確に反映できるものが理想と考えます。病気の名称はこれまで親しまれてきたものでない限り、少なくとも日本人にとって分かりやすい日本語であるべきだと思います。


堀様1藤田医科大学卒業。臨床検査技師。
日本医科大学付属病院勤務の後、青年海外協力隊に参加し、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島に2年間派遣される。世界保健機関WHOのプログラムの下でマラリア対策プロジェクトに従事。帰国後に就職した巡回健診事業を行う会社にて香港に赴任。健康に対する自身の理念を実現するため、1999年3月メディポートを設立し現在に至る。


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