総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:輸入感染症観光旅行でもご注意を!

2017/07/13

2014年夏、東京の代々木公園で突如として起きたデング熱の国内 感染事例。感染拡大を阻止するため長らく公園が閉鎖されるという 異例の事態となりました。国内で感染したと思われるデング熱患者が 約70年ぶりに発生したわけですから、当時はちょっとした衝撃として 社会に受け止められたようですが、これは海外で感染した人が代々 木公園で蚊に刺され、この蚊が次の人を刺して二次感染が起きてい たというものです。実は第二次世界大戦中に南方から持ち込まれた デング熱ウイルスによって、西日本を中心におよそ20万人以上もの 患者が発生したという記録があります。代々木公園での事例はそれ 以来のものですが、いずれにしても日本国内にはなかった感染症が 海外から持ち込まれたことが原因としておきたことです。

メディポート代表:堀 真

メディポート代表:堀 真

熱帯地方などを旅行あるいは滞在した人が何らかの病原体に感 染したことに気付くことなく帰国し、その後に発症したりあるいは潜 在化したりした感染症を輸入感染症と呼びます。輸入された感染症 でも発症しないことも少なくはないので、海外からの感染者は公表 されているものよりもかなり多いと考えられます。ちなみにデング熱 の場合、発症は感染者のおよそ2割程度。日本国内での発症者が毎 年200人くらいいるという陰にはその4倍ほどの未発症感染者がいる ものと考えられます。デング熱と同様に海外で蚊に刺されて感染する 代表的な病気にマラリアがあります。日本国内では毎年100~200人 程度の発症が確認されていますが、国内での感染事 例は少なくとも戦後においてはありません。戦争中 に南方に従軍したものの、復員後40年間海外旅行の 経験がないという人がマラリアを発症したという記 録があります。従軍中に感染していたことが確かで あり、この人はなんと40年間も感染に気付くことなく 健康に過ごしていたことになるのです。このように輸 入感染症はその感染に本人が気付くことなく潜在化してしまうことも 珍しいことではありません。

国際的な交流がますます盛んになる現代社会において、輸入感染 症の問題はさらに大きなものになっています。少し前までは、海外旅 行した日本人が熱帯病などを持ち帰るケースが目立っていましたが、 今では感染症が多い熱帯・亜熱帯地方の人々が日本旅行をする機会 が著しく増えており、日本人のみならず海外からの訪日客が持ち込む 感染症への警戒も怠ることはできない時代になっています。最近、日 本で梅毒患者が増えていますが、これも海外から持ち込まれていると する説があります。香港など国際交流が極めて盛んな都市では、輸入 感染症の問題は一段と大きなものであることは間違いありません。

さて、これからの季節、イースターなどの休暇が多く海外旅行を計 画している人も少なくはないと思いますが、自分自身が何らかの感 染症を持ち帰ってしまう危険性があることを認識しおかなければい けません。特に注意したいのはマラリア。その種類によっては命にか かわるマラリアは流行地が世界中の熱帯・亜熱帯の広い範囲に及び ます。リゾートホテルなどの敷地内は媒介蚊対策が施されていること が多く蚊に刺されることはほとんどありませんが、そこから一歩外に 出るとその危険性は一気に高くなります。香港から仕事で南アフリカ に渡航し、その際に休み利用してナイトサファリ観光をした日本人が マラリアに感染。香港に戻ってから発熱したものの 確定診断に時間がかかり、結局死亡してしまったと いう事例がありますが、日本国内でも毎年複数の 死亡例が確認されています。マラリアの診断経験 がない医師の場合、高熱を訴える患者を診察して も、マラリアなどその地域には無い病気を念頭に おいて診察することはまずありません。インフルエ ンザなど可能性が大きな病気を疑う ことから徐々に確定診断に迫るわけ ですが、診断に至るまでに時間がか かって治療が間に合わないというこ とにもなります。

熱帯・亜熱帯地方を旅行した直後 に発熱など体調不良を覚えた場合、 その直前の渡航先情報を医師に必 ず伝えることが自分を守るうえで非 常に重要です。マラリアは診断さえつ けば死に至る病気ではなく、投薬治療 で急速に回復します。デング熱も同様に感染しやすいものですが、こ ちらは死にいたることはまれです。残念ながら決定的な治療薬はな く、対症療法を受けつつ自然な回復を待つだけで、マラリアに比べる と緊急性が高いとは言えません。それでも早く確定診断できればデ ング出血熱へと進行しないかを監視するなど治療の方向性が決ま り、予後がより良いものになることが期待できます。

ところで日本は10年ほど前まで麻疹の輸出国であるとアメリカな ど先進各国から非難されていました。信じがたいことですが残念な がらこれは事実です。ワクチン接種が不完全であったことが原因で あったためで、その後予防接種の受診率を上げたことで、ここ数年 やっと日本固有の麻疹ウイルスが検出されなくなりました。

今後国際交流がさらに盛んになるものと思われ、国境を越えた感 染症の拡大がますます大きな問題になります。海や国境をまたいで 感染症が行き来する時代です。感染症に国境はありません。自分自 身を守るためにも、現状を少しだけでも理解しておくことが大切で しょう。

Mediport

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