総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:食中毒予防、宇宙食に学ぶ

2018/07/25
メディポート代表:堀 眞

メディポート代表:堀 眞

「地球は青かった」。この有名なセリフは、1961年4月に人類で初めて宇宙飛行を成し遂げた旧ソ連のガガーリンが地球に帰還した際に発したあまりにも有名な一言です。その直後には米国も有人宇宙飛行に成功するなど、当時は東西の大国が宇宙開発競争にしのぎを削り膨大な国家予算をつぎ込んでいました。結局、1969年にアポロ11号が有人月面着陸を成し遂げたことで大きな一区切りをつけていますが、現在にいたってもまた違った形で宇宙の開発に向けて研究が行われていることは誰もが知るところです。

ガガーリンの宇宙滞在時間はわずか1時間48分。たったこれだけの時間であれば食料やトイレのことはほとんど問題にはならないと思いますが、滞在が長くなれば当然ながらこれらの問題を解決しなければいけません。どちらも無重力状態でのこと、特別な仕様が要求されます。食べるものにしても昔はチューブ状のものばかりでしたが、今ではずいぶんバラエティーに富んだものになってきています。宇宙空間で調理することは難しいので、長時間の宇宙空間での滞在に向けて地球で積み込まれる食料はすべて加工された食品であり、当然のことながらその衛生管理は極めて厳しいものになります。

宇宙空間に滞在している間は万一にも食中毒を発生させることは許されません。もちろんいかなる病気もあっては困るわけですが、予防することが可能な食中毒は、そのリスクを限りなくゼロにするべく、宇宙食は厳格な衛生管理の下で製造される必要があります。そこで採用されたのがHACCP(ハサップまたハセップ)という食品製造における極めて厳しい管理手法です。食品製造工程においてリスクを起こす要因を分析し、それを連続的に管理することで食品の安全性を確保するものです。現在、HACCPは食品製造における衛生管理の世界基準となっています。たとえそこまでの基準を満たしていなくても衛生管理が厳しくなっている現代では、加工食品が食中毒の原因になることはほとんどなくなりました。

ところで、食中毒の発生が最も多い場所はどこだと思いますか?飲食店だと思う人も少なくはないでしょうが、実は一般家庭での発生が最も多いのです。食中毒発生件数を減らそうとすると、家庭での食品衛生管理を徹底しなければいけません。そこでHACCEPの概念を家庭にも取り入れ、6つのポイントを押さえて食中毒件数を減らすという試みがなされるわけです。

 

食中毒予防のポイントとは何でしょうか。
1. 新鮮なものを購入すること。肉や魚が他の食品に触れることを避けること。ディップ(食品からの汁)がほかの食品を汚染させないようにすること。素早く持ち帰ること。
2. 適切に冷蔵保存をすること。
3. キッチンの衛生管理。食材の適切な処理、調理器具の消毒。確実なごみ処理。
4. 調理者の衛生管理(頻繁な手洗い)、加熱など適切な調理。
5. 食事前の手洗い。
6. 残り物の適切な処理。再加熱は十分に。

 

これらはHACCPの概念を取り入れた、家庭での連続的な管理となるもので、要約すると、食中毒予防の3大原則となります。つまり食中毒菌を「つけないこと」「増やさないこと」そして「殺すこと」。調理者が手を洗うことや、特に生で食べるものに他の食品を接触させないことが、食中毒菌を付けないことになります。万一食品に食中毒菌がついてしまったとしても、食中毒を引き起こす菌数に増えないように喫食までの時間をできる限り短くすることが大切です。そして最後は加熱です。たとえ食中毒菌が増えてしまっていたとしても十分な加熱で殺菌することができます。もちろん黄色ブドウ球菌のように熱にきわめて強い毒素を生み出す細菌もあるので、必ずしも加熱殺菌が確実な食中毒予防になるというものではありませんが、あくまでも総合的な予防に努めることが求められます。

現代の食中毒は昔のように梅雨時から盛夏にかけて発生が多くなるというような図式ではなくなりました。年間を通して食中毒の発生には注意が必要です。一般の人が宇宙食を作るわけではないので、細かな予防規則まで気にすることはありませんが、発症してしまうと食中毒はとても辛いものです。一晩中トイレから離れることができなかったとか、家族でトイレの奪い合いをしてしまったという話も聞きます。そんな悪夢を経験したい人はいません。食中毒菌は隙あらば食品から人体に侵入する機会を狙っているといえましょう。調理する人はもちろんのこと、誰もが食中毒予防を常に心がけたいものです。食品をロシアンルーレットのように扱うことは、たとえ命を落とすことは稀だとしてもリスクが大きすぎます。

Capture_2018.07宇宙飛行と食中毒予防

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