PPWビジネス通信 × アナシス Vol.35

2020/11/25

M1

人事労務のアナシスによる誌上相談会

『「駐在員を減らす=現地化」でしょうか?』
問い:新型コロナ対応の結果、「人の現地化」が進んでいると聞きます。具体的には駐在員を帰国させ、後任が来ないなどのケースです。現地化で考えておくことはどんなことがありますか。

黒崎:新型コロナ対応でテレワークなども進み、職務・役割の再検討や人件費削減などの検討が進む中で、確かに駐在員を帰国させるケースも見られます。これまで総論賛成・各論反対で遅々として進まなかった「現地化」も、いよいよ本格化するかというと、そこには違和感を感じています。

 まず現地化とは人の現地化だけを指すものではありません。この言葉は人によって相当定義が違うので注意が必要です。人・モノ・金・技術・情報といった経営資源に関する現地化もあれば、管理・商品企画・開発・生産・販売といった機能に関する現地化もあります。さらに企業理念や意思決定システムといった経営方式の現地化も。人の現地化だけを取り上げても、現地トップおよび経営層人材と一般マネジャー層でも、考え方に大きく違いがあります。

 さらにグローバル化の目的によっても、また海外事業のステージによっても、求める現地化は変わります。例えば市場開拓型の進出であれば、現地情報がより重要になるので人の現地化がより進んでいるわけです。

 さて、人の現地化の本音レベルでの動機は、一番にはコスト削減が挙げられるでしょう。駐在員の総コストはアジアにおいても未だ高いものがあります。新型コロナ対応で往来が難しくなったことで、「いなくても意外と回る」ことに気づいた組織もあります。

 二つ目には取引先窓口のローカル化が進んでいることです。さらに非日系企業との取引拡大も含めれば、日本人同士の関係性がビジネスに大きく影響しなくなってきています。

 三つ目は権限委譲による現地人材のモラル向上ですが、これは効果がすぐに見えにくい点でどうしても後回しになっていると思います。他にも隠れた理由としては、日本のグローバル人材の枯渇という問題もあるでしょう。

 その他のメリットも多いのに、なぜ人の現地化はできてこなかったかというと、現地経営人材が養成されていなかったことと、権限委譲する勇気が足りなかったこと、そのスキルがないことなどが要因です。

 駐在員をゼロにするケースではまさにその要因、任せられる人材がいるのか、どう任せるのかがはっきりしているのかが課題です。完璧に任せられる人材など最初からいるわけもありません。これは覚悟の問題です。ポテンシャルのある人材を見つけ、任せ、本国からバックアップ出来る体制を作る。そのためには意思決定プロセスや権限規定、情報の見える化などの準備が必要になります。

 現地化後の課題への準備もあります。社長を現地化したとき、業績的には成果を上げた後、やがて独裁化して統制が効かなくなるというガバナンス問題がおこるケースがあります。「見えない化・言えない化」が増えることで、不正・横領も起こり易くなることも。また、長期政権が続くと後任問題や独立されて事業を失うといったことも起こっています。結果重視型のマネジメントに変わった場合、企業理念やコンプライアンスは守られるのかといった、経営方式の課題も見られます。

 そんな悪いケースだけではなく、当初はうまくいっていたものの元駐在員達の異動に伴い、現地経営層と本社との人間関係が希薄になってサポートも薄れ、本来のパフォーマンスがあがらなくなった企業もあります。現地トップを抜擢する時には「点」の関係ではなく、多数の人が関わる「面」の関係性を作っておく必要性を強く感じます。文書の契約だけでなく、裏切られることを前提としながらのそうした人々との「心の契約」が、日系企業には必要なのだと考えます。そして現地経営人材がモチベーションがあがる仕掛けと仕組みも用意しなければ貴重な人材を失うことになるでしょう。

 さて現地トップの現地化をすることのデメリットに、日本本社としてのグローバル経営人材の育成チャンスを失うという大問題があります。海外で全責任を負って経営していく経験は非常に貴重です。経営層として成長機会の大きいそのポジションを本当に現地人材にすることが優先されるべきなのでしょうか。私はそこは国籍ではなく「最適な人材の配置」なのだと考えています。それゆえ「現地化=現地人材をトップに据えること」という考えをまず捨てて、ゼロベースで現地化を考えたいと思うわけです

 


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