目から鱗の中国法律事情 Vol.50

2020/12/09

中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国民法における所有権(中国民法第240条~第270条) その4

 これまで、中国の所有権について見てきましたが、今回でこのシリーズも最終回です。(※以下、「民〇条」は、2021年1月1日から施行される中国民法の条文番号を、「物〇条」は、2020年12月31日まで施行される物権法の条文番号を意味します)

 

私人の所有権(続き)

 前回、中国では私人の所有権は、私人に対しては、原則として日本と同様の所有権が認められているが、「合法的な」財産と表現されている点に注意が必要であると述べました。これは、要するに盗んできた財物など「非合法に」取得した財物には、所有権の保障の対象とならないと考えられています。

 これに加えて、本シリーズその1でも述べた通り、公共の利益に必要があれば、団体、個人の家屋が徴用でき、補修や災害救助など緊急の必要がある場合には団体や個人の不動産や動産も徴用できるとしています

 

営利法人のその他の所有権

 私人の所有権については説明しましたが、それでは企業などの法人の所有権はどのようになるのでしょう。これについては「営利法人は、その不動産および動産に対し、法律、行政法規および法人の規則に従い、占有、使用、収益を得および処分する権利を共有する」(民269条第1項)、「営利法人以外の法人の不動産および動産に対する権利については、関連する法律、行政法規および法人の規則を適用するものとする」(民269条第2項)、「社会団体法人、援助法人が法によって所有する不動産および動産は法律の保護を受ける」(民270条)と規定されています

 

P21 Lawyer_767

物権法と民法の差異

 

 物権法(2020年12月31日まで施行)の所有権の規定と民法(2021年1月1日から施行)の所有権の規定は概ね同じですが、若干差異がある部分もあります。例えば、先ほど営利法人や社会団体法人・援助法人の所有権について説明しましたが、これは物権法では「『企業』法人」や「社会団体」と表現していました。「企業法人は、その不動産および動産に対し、法律、行政法規および法人の規則に従い、占有、使用、収益を得および処分する権利を共有する」(物68条第1項)、「社会団体が法によって所有する不動産および動産は法律の保護を受ける」(物69条)。

 中国の所有権の規定で、物権法から民法への切り替えによって改正された部分は、このような表現の差異程度であり、大きな変化はありません(しかし、全く表現が修正されていないわけではありません)。

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

P30 Lawyer_731

Pocket
LINEで送る