目から鱗の中国法律事情 Vol.60

2021/10/06

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国の著作権法改正 その2

 前回から2020年11月11日の中国著作権法の改正(2021年6月1日施行)について見てきました。今回はその続きです。

著作権法

  中国で著作権保護の対象となる著作物(続き)

 中国著作権法第3条の旧法本文は、「本法で作品というときは、次の形式で創作される文学、芸術と自然科学、社会科学、工学技術などの作品が含まれる」となっていました。これに対し、新法では「本法で作品というときは、文学、美術および科学領域で、独創性を有し、かつ一定の形式で表現可能な知的成果をいい、次の各号に掲げる著作物が含まれる」となっています。

 これは、旧法では著作権保護の対象となる作品の形式はあらかじめ決められているという前提が存在しています。これに対し、新法では、「一定の形式で表現可能な知的成果」、つまり知的成果(独創性など)が認められれば、どのような形式であろうとも著作権保護の対象であるということが前提となっています。

 同じことを表すのが、中国著作権法第3条(九)の旧法の「法律、行政法規に規定されるその他の作品」との規定が、新法では「作品の特徴があるその他の知的成果」との規定に変更されていることです。旧法では、法律などで規定されていなければ著作権法が保護する作品にはならない、としているのに対し、新法では、「特徴ある作品」ならそれのみで著作権法の保護の対象となるとしています。

 この旧法でいう「法律、行政法規」の具体例としては、「インターネット著作権紛争に関する案件の審理における法律適用の若干問題についての解釈」(中国語原文は「関于審理渉及計算机網絡著作権糾紛案件適用法律若干問題的解釈」。2000年12月19日最高人民法院発布、同月21日施行)があります(もっとも、この「インターネット著作権紛争に関する案件の審理における法律適用の若干問題についての解釈」は、司法解釈であり、厳密には「法律、行政法規」ではないのですが、中国法ではよくあることです……)。

中国の権利論

 ところで、中国憲法などに規定されている権利は、全て「積み上げ方式」と理解されています。つまり、中国では、人は最初には何の権利も持っておらず、憲法なり法律なりで権利を付与されて権利を持つ、と考えられています。中国著作権法の旧法は、これと同様の前提に立っており、中国著作権法第3条で著作権の保護を受ける「作品」としての地位を与えられていました。しかし、「一定の形式で表現可能な知的成果」であれば著作権保護の対象となると、中国著作権法が「中国的権利論」から脱却した点は注目されるでしょう。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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