尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.55

2021/11/03

勤務義務期間の約定要件

⑴勤務義務期間の約定条件

 使用者が労働者のために特別の研修費用を提供し、当該労働者に対し専門技術研修を行う場合、当該労働者との間で契約を締結し、勤務義務期間を約定することができます(労働契約法第22条第1項)。

 つまり、労使双方間で勤務義務期間を約定する前提条件は、使用者による研修費用の負担と専門技術研修を行うことです。

①専門技術研修の定義

 使用者が労働者のために入職前の社内研修、職場研修、配置転換のための研修、労働安全に関する研修などを実施する場合、これらの研修に関し、労働者との間で勤務義務期間を約定することはできません。

 実務上、以下に掲げる研修は、「専門技術研修」と認められる可能性が高くなります。

ⅰ)学歴教育
ⅱ)全日制の大学、専門学校、科学研究機構、研修センターなどにおける研修
ⅲ)労働能力の向上を目的とする実務研修(例えば外国語研修、専門技術研修、労働技能研修等)
ⅳ)外国または使用者所在地以外の地域で行う職業訓練、研修など

②研修費用の負担

 労働契約法実施条例第16条によれば、研修費用には、使用者が労働者に対して専門技術研修を行うために支払った証憑のある研修費用、研修期間の出張旅費及び研修に起因して生じた当該労働者に用いたその他の直接費用が含まれるとされます。

 

⑵勤務義務期間と違約金の約定

 労使双方間で勤務義務期間に関する契約を締結する場合、上記⑴に記載した労働契約法及びその実施条例の規定に違反して合意することはできません。

 勤務義務期間(勤務義務期間は専門技術研修が終了した日の翌日から起算されるのが一般的です)については、労使双方間でこれを合意することができますが、明らかに不合理である場合は、人民法院により無効と認定される可能性があります。

 そこで、使用者は、専門技術研修の期間、研修費用などの要素を総合的に勘案した上で、合理的な勤務義務期間を約定する必要があります。

 勤務義務期間に関する違約金は、使用者の負担した研修費用を上回らない限度で設定しなければならず、労働者が勤務義務期間の履行中に解約を申し出た場合、労働者は勤務義務期間の未履行部分に応じた研修費用を超えない限度で違約金を支払うことになります(労働契約法第22条第2項)。

 

⑶労働契約及び勤務義務期間に関する契約の解除

 労使双方間で勤務義務期間に関する契約を締結し、労働者が労働契約法第38条(労働者による一方的な労働契約の解除事由)の規定により労働契約を解除した場合、勤務義務期間に関する約定への違反には該当せず、使用者は労働者に対して勤務義務期間に関する違約金の支払いを要求することはできません(労働契約法実施条例第26条第1項)。

 しかし、労働者が次に掲げるいずれかの事由に該当し、使用者が勤務義務期間に関する契約または労働契約を解除する場合、労働者は勤務義務期間に関する約定に従い、使用者に対し違約金を支払わなければなりません(労働契約法実施条例第26条第2項)。

ⅰ)労働者が使用者の規則制度に著しく違反した場合
ⅱ)労働者に重大な職務怠慢、自己の利益のための不正行為があり、使用者に重大な損害をもたらした場合
ⅲ)労働者が同時に他の使用者と労働関係を確立し、現使用者における業務上の任務の完成に深刻な影響を与え、または現使用者から是正を求められたがこれを拒否した場合
ⅳ)労働者が詐欺、脅迫の手段により、または人の危急につけこみ、使用者にその真意に反する状況下で労働解約を締結または変更させた場合
ⅴ)労働者が法により刑事責任を追及された場合

 使用者は、勤務義務期間の履行中に、労働契約の法定解除事由が生じてない限り、勤務義務期間に関する違約金の放棄のみをもって、一方的に労働契約を解除することはできません。


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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶應義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害、紛争解決

 

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