アナシス人事労務誌上相談 Vol.50

2022/02/23

M1

 「評価の季節が来ていますが、コロナ禍での評価で注意することはありますか?」

 

問い:コロナ対応の中、4月に賃金改定があり評価は実施しなければなりません。こうした環境下での評価で注意することはありますか?
黒崎:評価の原則は、環境が変わろうとも大きな違いはありません。予め決められたルールで、事実をベースとして論理的に、バイアスに囚われることなく実施するものです。コロナ対応の影響でテレワーク下の評価となるケースも多くなるかも知れませんが、それでも評価の対象(成果)がしっかり定義できていれば、対面でなくとも評価はできるはずのものです。ただし「成果」があいまいになっていれば、それも難しい。そもそも評価は完全なる客観性などは実現できないものです。
コロナ対応での業務の制約条件により、成果の出かたも職種によっても大きな差が出たり、業績も企業によって差が出たりしました。そうした中で従業員から求められる「公平性」を担保するのは、日常からコミュニケーションを積み上げられてこなかった企業は辛いはず。評価は最後の最後だけすればいいものではないからです。ただ、明らかにコロナのせいで成果を出せなかったという職務であれば、そこへのできる限りの配慮は必要となるでしょう。それでも冷たく言えばその人材が組織に必要かどうかでもその配慮も変わってきます。
今年の評価で注意するとすれば、3末までの利益が大きく出ている企業でしょうか。昇給・賞与原資にはそれが影響するかも知れませんが、ここぞとばかりに「逆算評価」をしてはいけません。中国・香港の評価者研修で私が真っ先に取り上げるエラーはこの「逆算評価」です。昇給率や賞与などの処遇を念頭に置いて総合評価をまず決めてしまい、そこから逆算してつじつまを合わせた評価をしてしまう傾向のこと。これはデメリットも多いのです。評価項目の細部の理由がこじつけとなり、本人にも周囲にも納得いくものにならなかったり、せっかく立てた目標への達成意欲をそいだりすることにもなりえます。評価は処遇の決定だけではなく、人材育成という重要な目的もあります。それを忘れて処遇だけに結びつけてはいけないのです。
また賃金には「現在価値評価・市場価値評価」という側面があるために、「過去評価」である人事制度上の評価結果と矛盾することがあることもこの問題の一つです。評価は評価として、いいも悪いもしっかりフィードバックした上で、もし原資に余裕があるのであれば、市場価格との調整を行うことはあり得るでしょう。
評価の注意点と言うことでは、こうした評価エラーはいつも考えなければならないポイントです。その代表例は「ハロー効果」でしょう。一面的な強い印象だけで、全体の評価を決定してしまうもの。目立つ部分しか目に入らなくなって、それだけを取り上げて評価をしてしまう典型的な失敗例です。「ハロー効果」はあまりにも有名な評価エラーなので、多くのマネジャーは「知っている・分かっている」と思ってしまうのですが、人が自然に持ってしまうバイアスが影響しているものなので、あえて自覚する必要があります。
「ピークエンド効果」というバイアスもこれに関係しています。パフォーマンスのピークと最後のものが出来事全体の印象を決めてしまうというバイアスです。最後のものは「期末効果」とも言われます。春節前後に急に態度が変わってニコニコしてくる人は、この効果をよく知っているのでしょう。部下側も評価では一番良い時をアピールして来ることが多いので、評価期間全体にわたっての良い時・悪い時・普通の時のそれぞれの事実を冷静に客観的に見なければいけません。
これらのバイアスも人が無意識に持っているもののひとつです。昨今「ダイバーシティ&インクルージョン」という文脈の中で、この「アンコンシャス・バイアス」が語られますが、日常のみならず人事評価においても自覚すべきテーマなのです。評価はマネジメントそのものです。目標や評価項目の適切な設定から始まり、日常からのフィードバックがあるからこそ、その評価に納得してもらえます。日頃よりバイアスから離れ、部下達との対話を重ねてみてください。


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