目から鱗の中国法律事情 Vol.65

2022/03/09

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国で個人情報保護法が施行 その1

中国では2021年8月20日に、個人情報保護法(中国語原文は「個人信息保護法」)が公布され(主席令第91号)、2021年11月1日から施行されています。これについては、顧客情報の管理などにもかかわってくるので、多くの日本企業も注目しているのではないでしょうか。今シリーズでは、この中国の個人情報保護法について見ていきましょう。

個人情報保護法制定の理由
スクリーンショット (635)中国では、これまで個人情報保護の法律がなく、このような法制定を行うことには非常に後ろ向きでした。それは、社会主義国家として社会管理のために市民の情報を集めているのはむしろ政府の方であり、政府が法律で自らの市民の情報収集を行いにくくすることをしないためと言われていました。しかし、中国ではインターネット利用者が激増しており、企業などが利益のために顧客情報の収集をする際に、違法な収集や個人情報の売買などが行われ、個人情報の利用方法から市民の生活の安寧が脅かされ、場合によっては生命や健康、財産の安全などに問題が発生するようになったため、個人情報保護法が制定されたとされています。
これまでの中国の法の方向性を大きく転換させるという意味で、この個人情報保護法制定は大きなことと言えるでしょう。

個人情報とは
中国の個人情報保護法では、個人情報の定義を、電子またはその他の方式で記録されたすでに識別されたもしくは識別可能な自然人(生きている人間)に関する各種情報で、匿名化処理が行われた情報は含まないものとするとされています(第4条第1項)。これに対し、日本では、個人情報は、①当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの、または②個人識別符号が含まれるものとされています(日本の個人情報保護法第2条)。これを見ると、日中ともに個人情報とは、特定の個人を識別できる情報と言いたいように見えますが、日本は、氏名や生年月日など例示を挙げているために、ある程度分かりやすくなっています。これに対し、中国の個人情報の定義は、非常に抽象的なものになっています。
また、まず「電子的方式で記録された」という言葉が定義の頭につくように、やはり中国の個人情報保護法は、インターネット利用者増加が直接の原因となって制定されたと言えそうです。
(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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