ビジネスの翼 第8回

2022/04/20

P06 Business_wingfat 758
堀井良教氏(株式会社更科堀井 代表取締役)
「伝統のそばの味を守り、日本の食の価値を高めていく使命」
創業1789年、233年目の歴史を持つ東京・麻布の総本家「更科堀井」は更科そばの名店として大名や皇室、正岡子規にも愛されてきた。しかし昭和16年に廃業を余儀なくされるが、九代目に当たる堀井良教氏が父と共に再興させた。先代からの味と伝統を受け継ぎながら発展をさせる堀井社長にお話を伺った。

スクリーンショット (928)スクリーンショット (927)

 

 

 

 

 

 

 

中込直樹:昭和16年に一度途絶えた「更科堀井」ですが、堀井さんはお父様と共にその名店の再興にあたられましたね。

堀井氏:創業家として一度途絶えた「更科堀井」を再興させるべく、1984年に私の父が創業の地である麻布に総本家「更科堀井」を開店します。
私も大学を卒業してすぐに入店しました。父は店の再興にあたり正直な商売をして、美味しいおそばをお客様に提供することを第一と考えました。私には父から、美味しいそば作りに注力する使命を与えられました。幸い戦前の「更科堀井」からのれん分けをして、当時の味を引き継いでるお店も多くありました。また祖父の代からお付き合いのあった「砂場」「藪蕎麦」などの蕎麦の名店にも、お力を借りることができました。そのため私は30代半ばまで、職人として美味しいそばやつゆを作ることに没頭してきました。

中込直樹:麻布の本店はじめ、国内で3店舗を構え順調に経営を拡大されてきたと思います。そんな中でコロナ禍が起こり飲食業界には厳しい状況が続きましたね。

堀井氏:コロナ禍でお客様が減り、売り上げが下がると社員の士気も落ち、会社を去った社員もいました。そのため、社員の士気を上げるべく、全店舗で起業理念の再確認をし、皆の意識を上げていく。それとともに、新しい商品の開発などにも取り組みます。例えば家庭でお店の味を味わってもらえる「半生そば冷凍鴨せいろ・鴨南蛮セット」の販売なども始めました。これらの工夫によりコロナ禍でも売上を確保でき、社員の負担を減らすことができましたね。

中込直樹:堀井さんは生産者と組んで日本の食文化の向上にも取り組んでおられますね。

堀井氏:現在、長引く不況などで、日本の食の価値が下がってきている。しかし私たちは生産者と協業して価値のあるものを、高く売っていきたいと考えています。私は全日本・食学会という団体の常務理事をやっていますが、そこでは日本食の価値を高めるために一生懸命取り組む生産者を他のシェフに紹介するなど、生産者の持続可能な生産を助ける取り組みをしています。
私の店舗でも沖縄の貴重なブランド豚を使った「アグー豚と江戸野菜のしゃぶしゃぶ」などを提供しています。本当に良いものを作っている生産者から仕入れ応援することで、日本の食の価値を高めることにもつながります。またそれによって店舗の売り上げも増えればスタッフにも余裕が生まれ、新しいことに挑戦する意欲が生まれるという好循環を期待しています。

中込直樹:2021年にアメリカのニューヨークに出店し、現地の人から大変な人気を得ていますね。スクリーンショット (929)

堀井氏:私は2007年にもアメリカに行き、現地で調査をしたことがあるんです。当時から現地の水は硬水で、そばを打つのには適していないなどの問題がありました。レストランでマグロの刺身を注文すれば、魚を〆て血抜きもしてない刺身を「ほら、こんなに新鮮なんだぜ」と、出されるなど、日本食への知識や技術が不足している、と感じました。しかし2021年にニューヨークに出店した頃には浄水器も普及し、流通も発達し日本食材の調達が容易になっていました。それに加え、和食が世界文化遺産に認定されたことで、和食への理解もずいぶん深まったと感じました。
ニューヨークの店舗では、更科そばをフィーチャーしています。まっ白いおそばという珍しさと、「230年前に日本の将軍も食べた」というストーリーが好評で、90%のお客様が注文してくださいます。

中込直樹:なるほど、おそばとともにそのストーリーも楽しんでもらうのですね。今後は、香港などへの進出もお考えでしょうか。

堀井氏:そばはグルテンフリーで栄養価が高く低GIの健康的な食材です。今の世界的な健康志向の高まりに合わせて、上手くPRしていければ進出のチャンスはあると思っています。コロナが収束したら、香港などでの展開も考えているので、その時は、ぜひ足を運んでいただけると嬉しいですね。


 

スクリーンショット (924)堀井良教氏
(株式会社更科堀井 代表取締役)
1961年5月8日生まれ、慶應義塾大学卒。更科そばの名店「更科堀井」の再興を目指し、かつて暖簾分けをした更科一門の店主達から教えを受け、23歳、寛政元年(1789年)に初代が店を開いた麻布の地に「更科堀井」をオープン。以来総本家として「更科そば」の伝統を守り続け、現在4店舗(都内3店舗、ニューヨーク1店舗)を構える。また、全日本・食学会常任理事も務める。

 

 

スクリーンショット (925)中込直樹(なかごみなおき)
Wing Fat International Creative Ltd(ウィングファットインターナショナル)代表取締役。製造拠点(中国、ベトナム)を中心にキャラクターライセンスを使用したマーケティング、企画製造を手掛ける傍ら、中国向け商品ブランディング、プロモーションを支援するDream Creation(ドリームクリエイション)を創業。多方面で活躍中。コーポレートメッセージは「日中を夢中に!」山梨県南アルプス市出身。

Pocket
LINEで送る