尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.69

2022/08/17

香港の中国委託公証制度

中国本土(中国大陸)と香港地区(香港)は二つの司法管轄区域に属し、それぞれ異なる法系であることから、香港で発生した法律に基づく事実、文書あるいは法的行為が中国大陸で公式に承認を得たり、中国大陸で文書を直接使用するためには、これを証明する必要がある。香港では、中国大陸の公証処のような機関が公証事務を一括処理することはなく、イギリスの公証制度をそのまま維持しており、公証人は律師などがこれを務めている。

1981年に中国司法部は初めて、中国事務についてよく理解している8名の香港律師に対し、香港住民を対象に中国大陸で法律事務を処理するための証明文書を発行する業務を委託し、彼らは「委託公証人」と呼ばれた。その後、司法部は委託公証人制度を次第に改善して、香港律師が司法部の審査を経て「中国委託公証人」に委任され、香港で発生した法律行為、法律的意義のある事実と文書について、中国委託公証人として証明書類を発行して、中国法律サービス(香港)有限公司の審査と捺印を経て、中国大陸に転送され関連手続きのために用いられる。委託公証人制度が実施されてすでに40年が過ぎ、中国大陸の関連部門が香港に関わる事務を処理するために真実かつ合法的な証明書類を提供することで、当事者のために便宜を提供し、中国大陸と香港間の交流と発展を大いに促進した。

香港の委託公証文書は民商事活動の各分野を網羅し、概ね次の五種類に分けられる。(1)声明書(結婚、親族関係、相続、相続放棄、養子縁組、担保、同一人物の身分など)、(2)一方が署名したことを証明する法律文書(委託、贈与など)、(3)双方または多者が署名したことを証明する法律文書(不動産売買契約、貸付契約、抵当契約など)、(4)法律事実の証明文書(出生、死亡、会社の資料証明など)、(5)証明書類の原本とコピー

証明書」とは公証人の署名により公証文書に言及された法律事実または法律行為を証明することであり、「委託書」とは当事者が公証人の前で委託書に署名し、公証人の署名によりこれを証明することであり、「声明書」とは当事者が公証人の前で香港の「宣誓と声明条例」に基づき声明書の内容の真実性について声明及び署名を行い、公証人は香港律師として監督及び署名することである。現行の公証規則によると、声明類又は署名類の公証は、本人が香港で、公証人の前で行い又は署名しなければならず、その他の証明類の公証は本人が香港で、公証人のところに行って処理する必要はない。例えば遺産相続/遺産相続放棄の声明は「声明類」の公証を行う必要があるため、当事者は公証時に香港にいることが求められる。また、例えば大陸の法院で提訴した当事者が香港人、香港法人あるいはその他の香港組織である場合、提訴人はその主体資格について証明書類を提出しなければならず、法律の規定によって公証、認証手続きを行うか、またはその他の証明書類を提供す必要があるが、これを「証明類」の公証といい、当事者は公証時に香港にいなくてもよい。香港人、香港法人又はその他の香港組織は中国大陸の律師に訴訟代理を依頼する場合、授権委任状に署名する必要があるが、これを「署名類」の公証といい、当事者は公証人の前で署名しなければならない。

香港の文書を大陸に発送して使用するには、次の二つの段階を経なければならない。(1)中国委託公証人に公証を依頼し、及び(2)中国法律サービス(香港)有限公司の審査、捺印を経て専門郵送を手配する。

なお、コロナ防疫措置がなお厳しい中、中国大陸と香港間の行き来が不便であるため、遠隔映像などの方式で公証を行うことはできないか、といった問い合わせが多いが、今のところ「中国委託公証人弁理公証文書規則(試行)」及び業務手引に基づき、「委託書」、「声明書」など当事者の声明又は署名が必要な公証文書を取り扱う場合、当事者は香港で、委託公証人の前で文書に署名することが求められる。ただし、中国大陸にいる香港人は香港の直系親族に依頼して「単身証明」の公証を行うことが許されるなど、一部業務において融通が利くようになったものもある。

(本文は卓建律師事務所劉姝律師の文を和訳したものである)

 


 

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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶應義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害、紛争解決

 

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