アナシス人事労務誌上相談 Vol.58「昇給率を考えるにあたって」

2022/10/19

M1問い:予算案を策定していますが、来年の昇給率はどうなりそうでしょうか。

黒崎:昇給率そのものは現在調査中ですが、それを考えるに当たってと言うことをお話ししたいと思います。
現時点での香港での弊社調査によると、今年の業績予測では、4割弱の企業が昨年よりも好調と答えています。実際には「厳しい」という声もよく聞くのですが、調査上は1割の企業だけが今年の悪化を懸念。来年へ向けてはこの厳しさが増すと考える企業は増えています。その中で基本インフレ率の香港の2022年通年予想値は2%(2022年8月12日香港政府予測)で、騒がれているほど高くありません。
問題なのは求人難です。人が採れない。特にフロントラインのジュニア層の採用と定着がよくないという声を多く聞きます。
そうなると、賃金の底上げも検討されるところがでます。下の階層の賃金をマーケットプライスに合わせようとすると、その上も合わせる必要が生じ、アタマが痛いところです。
これらを総合して検討した結果が来年の昇給率予測となりますが、香港だけを見ていると今年よりは結構上がりそうだと予測しています。
さて、これら昇給率を考えるに当たって必要なことをいくつか述べたいと思います。

(1)過去の平均の昇給率に惑わされないこと
「平均の昇給率」は毎年一人歩きします。しかも従業員達が目にするそれら「平均」は、彼らの期待値の目安になってしまいます。調査団体によってサンプルの取り方が違いますが、毎年同じ傾向がでるようです。欧米系団体は比較的高い数値で、ローカル系はCPIや景気変動に敏感な数値。我々日系は景気が悪くても極端には低くならずに比較的安定といったところ。
そして問題なのは、人は自分の欲しい情報だけを取ろうとする傾向があることです。これは経営側も従業員側もです。そして「平均値」というのは、高い数値も低い数値も含んだ幅のあるものです。あまり平均値にとらわれ過ぎず、データの分布を見るべきです。その分布の中で自社がどの位置につけているのか、つけようとしているのかが重要となります。
また従業員が自社の業績をどう感じているかにも注意が必要です。その業績と昇給率の間の違和感がないような工夫が必要となります。
もうひとつ、その年々においても「%」の意味が違います。ここ数年は低い昇給率でも満足してもらえたケースもありましたが、同じ昇給率を提示しても人の感じ方は違うということです。
(2)引き留めたい個別人材のマーケットプライス情報を集めること
リテンションのためには、昇給後の賃金が市場価格とずれていないかがポイントとなります。昇給率で管理していくと、ここを外しやすいので注意が必要です。マーケットプライスの確認には実際の採用活動や人材エージェントとの上手な関係構築が必要になるでしょう。
(3)非金銭的報酬を検討すること
金銭的報酬には限界があります。このコラムで何度も書いてきました「非金銭的報酬」、金銭以外での報い方を用意する必要性があります。仕事そのもの・仲間達・働きやすさ・心理的安全性・成長の機会などなど、日常の感謝や承認なども含め、こうした非金銭的報酬をしっかりと検討すべきです。
最近、何人かの経営者の方と、中国・香港の資産持ちの幹部クラスの話をしました。家もいくつか持っていて、すこしばかりの金銭的なことでは動かない人達。彼らが目の色を変えるのは、お金ではありません。お金持ちの現地従業員に活き活きと働いてもらうには、この非金銭的報酬のなかでも存在意義や目的といった、働く意味の根源的な議論が必要になるでしょう。私もオフサイトミーティングでそうした幹部達が生まれ変わったケースを見てきました。
(4)賃金を上げるのであれば、それだけの成果も求める仕組みと仕掛けを考えること
例えば3.5%の賃上げを20年続けると賃金は最初の2倍になります。倍になった賃金ですが、果たして仕事の価値・成果は倍になっているでしょうか。賃金をあげるのであれば、経営としてもそれなりの成果を求めるべきだと私は考えます。中国でも香港でも、賃金を毎年あげなければならないという法律はありません。
その成果のあげ方を経営も従業員も問われているのです。
日本から見ると円安を含めても高く見えるかもしれない中国・香港の賃金。成果を上げてくれるのであれば、高い賃金でも構わないのではと思います。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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