アナシス人事労務誌上相談 Vol.59「今度採用する人の給与が、既存社員よりも高くなる」

2022/11/16

M1問い:今採用予定の人が既存社員よりも高い給与でないと採れそうもありません。しかし、既に数年働いている人の賃金も上げなければならなくなると困ります。どうすればよいのでしょうか?(香港)

黒崎:残念ながら結論は企業の考え方と状況によるというものになり、正解はありません。今年は以前より増して採用難となっています。高い給与で入社後にパフォーマンスがいまひとつということもよく起こっています。
賃金は市場価格とその人に居て欲しいかどうかで決まります。採用し、引き留めたいのであれば市場に合わせる必要があるということです。私も香港に来て20年になりますが、この間、景気の浮き沈みによって高め給与の時の入社とそうでない時とで必要悪的な不公平さが生じてきました。残念ながらそこにシステマチックに対応できる仕組みはないでしょう。
こういう状況にいたる原因はいくつかあります。まず第一に売手市場による市場価格の高騰。市場価格とずれているのであれば、既存社員のリテンションにも課題が生じている可能性があります。それゆえ、現在の賃金レンジを再考することも必要です。
ある企業では特に問題になっていた一般職層の賃金レンジの一律引き上げを実施しました。しかし賃金を上げ続けるわけにもいかないので、「払いがいのある人」を見極める、すなわち誰を残したいのかというアセスメントをしておくことも重要です。
「払いがいのある賃金」という観点では、戦略的な職務のアサインメントが必要になります。多くの求人は、人が辞めたのでその補充という「リプレイスメント」です。今回は香港のケースでお話ししていますが、単純なリプレイスメントを繰り返すことは非常に危険です。組織そのものを見直し、職務の割り当てを検討し直す。たとえば残った社員で分担、この際やめてしまうタスク、マニュアル化、あるいはロボット化や外注化。ここを手抜きせず、しっかりとBPRに取り組むこと。そうすれば単純なリプレイスの代わりに、やや低いレベルの職務を新人にアサインすることで採用ターゲット層を下げて給与レベルを抑える。
逆に既存社員には新しいアサインメントをすることで賃金の見直しをはかってマーケットプライスに合わせる。現実的な結果としてそうなってしまった企業もあります。そこを最初から戦略的な職務アサインメントに変えるということです。単純なリプレイスは戦略性の欠如です。
二つ目の理由としては採用力の低下という原因があります。「採用力=企業力×採用活動」という公式があります。この企業力には企業の知名度や安定性・賃金や福利厚生の良さ・仕事そのものなどが含まれ、そう簡単には変えにくいものです。もう一つの採用活動はまだまだ工夫出来る領域です。例えば書類審査にしても面接の設定にしても、とても採用を優先させているスピードとは思えないケースがあります。面接の手法含め、工夫する努力があれば、たとえ低い賃金であっても成功することがあるのです。採用の優先順位をあげることを経営者は覚悟すべきです。
またせっかく採用してもすぐに辞めるケースも続出しています。他により高い給与の仕事が見つかったからという残念なケースも確かにありますが、入社当日の受入れ態勢の欠如など職場の雰囲気などにも影響されます。「聞いていたことと違った」などのケースは採用時のコミュニケーションミスですが、現場のマネジャーとも採用とオンボーディング(職場への順応)の重要性をシェアしておく必要があります。
以上見てきたように、採用難の時の暫定対策としては(1)採用力を向上させる(2)高めの給与での採用を承認する(せざるを得ないのであれば)(3)試用期間での動機付けとアセスメントを強化する(4)特別なリテンション対象の既存社員の処遇を再考する、ということになるでしょう。
しかしながら恒久対策も検討する必要があります。それは(1)人事ポリシーの確立(2)組織構造の改革の2つです。どんな人を求めるのか、どんな組織にしたいのか。それが人事ポリシーになります。どんな人を残したいのか。その考えの軸にそって既存社員をアセスメントしてポートフォリオマネジメントしていくことになるでしょう。戦略的な職務アサインメントができるような組織構造の改革に着手すること。特に香港は世界の中でのリ・ポジショニングが求められています。最適な組織とは何かを考えながら採用に取り組む必要性を感じます。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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