アナシス人事労務誌上相談 Vol.61「出張が増えそうですが考えておくべきことはありますか?」

2023/01/25

M1問い:まずは駐在員の出張からではありますが、今後中国香港の行き来が増えると思います。考えておくべきことはありますか?(1月10日中国ビザ発給停止ニュース以前のご質問です。最新情報のアップデートが必要です)

黒崎:ウィズコロナへ大きく舵が切られた中国・香港。多くの従業員が感染し、年末年始もその劇的な変化への対応に追われてしまう企業も多かったのではと思われます。そして急激な正常化。
そんな中1月8日からは中国側の渡航時の隔離も撤廃され、これまで控えられてきた出張・渡航の増加が想定されます。経営・人事としても、できる限りリスクを低くする必要性があります。この環境変化の中で思考を通しておきたいことを取り上げます。ただし、「緩和されたから出張に行け」と単純にはいかないことが想定されます。間違った舵取りをすれば、人は流出し、不必要なコストが増加することとなります。
そもそもの出張の是非から考える必要があります。コロナ禍では「不要不急の出張は控えよ」と言われていました。が、そもそも「不要」の出張はあり得ません。一方の「不急」に関しては、状況変化が激しいときは「行ける時には行っておく」「会えるときに会っておく」ということを、私は経験則として学んだと思っています。さて、これまで出張がなくてもなんとかなってきたのに、なぜここで必要になるのでしょうか。そのメリットが腹落ち出来ないと、命令された従業員達は動かないかもしれません。
それでは対面のメリットとは何か。それはオンラインでは不得手な領域を解決できるからです。たとえば人間関係構築の初期段階や、複雑で抽象的な議論などは、情報量が圧倒的に違いますし対面が優れているものです。営業の新規開拓や担当者変更時の挨拶もそれです。「同じ釡の飯」による関係性構築なども、「ZOOM飲み」よりは成果が出そうです。
また一部には「対面でなければ失礼」と考える人達もいます。感情的なしこりの緩和なども対面にはかなわないでしょう。この辺の考え方が無くならない限り、対面の重要性はなくなりません。それどころか、限られた対面時でのパフォーマンスが問われることになります。
確かに「会いに来る人」と「オンラインで済ませようとする人」とでは、その人達のパフォーマンスにもよりますが、評価はまだ前者の方が高いのが現実かもしれません。
一方でオンラインでもかなりできることが増えました。コロナ感染への恐れや効率性から、対面を嫌がる顧客の存在も無視出来ません。しかしオンラインでは音声のズレやネットトラブルなどによるストレスは未だ存在します。また「場」のファシリテーションにおいては、オンライン上でのスキルはより高いものが求められます。対面型の方がその難度は低く、人材の質に差がある場合は対面の方がパフォーマンスが高くなるでしょう。
デメリットとしては、上述の対面を嫌がる顧客の存在にどう対応するかということと、リセッションが予測されるなかでの経費削減問題でしょう。
さて、出張・渡航においてのリスクも検討しておく必要があります。まず1つ目のリスクはルール変化への対応です。日本の水際対策も刻々と変化します。先日は香港から日本へのフライト制限でドタバタがありましたが、事前の抗原・PCR検査実施ルール等は今後も最新情報のアップデートが必要です。また、渡航前および現地での感染や濃厚接触が発覚すると、決めてあったスケジュールが変更になってしまいます。これがストレスになります。最新情報の確認はどうしても複数の人が重複して実施しますので非効率です。
こうしたストレスが出張を嫌がる従業員を増やします。コロナに対する恐れの温度差による拒否反応もあります。また、香港にはかつてのデモ参加者など中国に出張できない過去を持つ人もいるようです。これらの人達が出張命令によって外部流出してしまうリスクが2つ目です。
3つ目のリスクは受け入れ側の拒否反応です。お客様へは確認しながら進めることになるでしょうが、同じグループ内での関係構築が課題になっている企業もあります。現地スタッフの感情を無視した華南一体化やOne Chinaのコンセプトはなかなかうまく行かないでしょう。コロナ後に中国と香港の間のチームビルディングが必要となっている組織は少なくありません。香港のポジショニング変化がここにも影響してきています。
4つ目のリスクは、万が一の台湾有事です。私はその可能性は極めて低いとみていますが、最悪も想定するのが経営なのでBCPを策定しておく必要性を感じます。中国・香港・台湾の駐在員・従業員の帰任や退避をどうするのか。SCMをどうするのか。偶発的な有事に対応する検討はしておくべきでしょう。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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