目から鱗の中国法律事情 「中国の非法人組織③」

2023/05/03

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.79 中国の非法人組織 その3

前回までで、中国民法典に非法人組織も財産関係を持てると規定していることについて見てきました。今回は今シリーズの最終回です。

日本にも実は非法人組織に関する規定はある
これまで、中国に非法人組織についての規定があることが非常に特別なことのように述べてきました。しかし、実は日本にも非法人組織について規定している法律の条文はあります。例えば、日本の民事訴訟法第29条は、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる」と規定しています。
これは「法人」でないサークルなどであっても、代表者または管理人がいる場合には、民事裁判の原告または被告になることができるという意味です。例えば、法人格を取得していない演劇サークルなどに舞台出演を依頼したが、結局その演劇サークルが無断欠席して、出演依頼をした者が演劇サークルに損害賠償請求の訴訟をする場合などについては、法人格がなくても訴訟の相手方となれるのです。この場合、サークルの構成メンバー一人一人に訴訟を行うより、サークルに対して訴訟をした方が合理的だからです。3568746_l

中国の非法人組織も財産関係を持てるとの規定
しかし、やはり財産の所有関係については、日本や欧米の法的知識を学んだ者にとっては、法人格がないのに財産関係を持てる(=財産を所有できる)ということが理解し難いこともまた事実です。繰り返しですが、「法人」というのは、そもそも財産関係の対象とならない存在を、法律的に「人」」としての地位を与えて、「財産関係の対象にした存在」だからです。
それにもかかわらず、前回説明しましたように、中国ではこの非法人組織にも財産関係を認める規定につき詳細な説明がなされておらず、当たり前のことと認識されているように思われます。
この点から見ると、一見すると日本や欧米の法律に極めて近い法律となっているように見える中国の法律も、実はまだ日本人などが理解する法律とは大きく異なる世界にあるのだな、と思わせてくれます。一見すると、中国の法は日本と似ているように見えますが、やはり日本での法律上の常識がそのまま通じるとはいえないということです。

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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