目から鱗の中国法律事情 「中国民法典における契約③」

2023/08/28

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.82 中国民法典における契約 その3

今シリーズでは、中国民法典(2021年1月1日施行)における契約の規定を見ています。前回までで、申込の効力の発生時期まで見ました。

申込の撤回
中国民法典第475条は以下のように規定しています。「申込は撤回することができる。申込の撤回は本法第141条の規定によるものとする」。そして、中国民法典第141条は、「行為者は、意思表示を撤回することができる。意思表示の撤回の通知は、意思表示が相手方に到着する前もしくは意思表示と同時に相手方に到着する必要がある」と規定しています。つまり、申込の撤回をする場合には、申込が相手方に到着する前か申込と同時に相手方に到着する必要があるということです。

分かりにくいかもしれない部分なので、手紙で契約を締結していた場合のことを想像してみましょう。まず、手紙で相手方に契約の申込をしたとします。しかし、この申込を撤回したくなった場合、その手紙が相手方に到着する前か到着と同時に、「既に申込の手紙は出しているが、それは撤回する」という内容の通知が相手方に届く必要があるということをいっているのです。24521063_l

申込が相手方に到着した場合、相手方も、その内容で合意するか考えます。そのような考える作業を相手方が始めた以上、もう申込者の一方的都合で申込は撤回できないということです。そのため、申込を撤回する場合は、申込の意思表示が相手方に到着するより前か同時に相手方に到着する必要があるのです。

申込の取消(撤銷)
申込の撤回とは別に「申込の取消」という規定もあります(中国語では「取消」は「撤銷」)。法律上、撤回と取消は異なります。撤回は、最初から申込をするつもりがなかったのに間違えて申込をしてしまった場合などに、最初からその申込がなかったこととする意思表示をいいます。これに対して取消は、申込をした後、事情が変化したために申込をしたけれどその申込をやめることとする意思表示をいいます。撤回の場合、最初から申込がなかったものと扱われますが、取消の場合、取消がされるまで申し込みはなされていたとして取り扱われます。

そして中国民法典第476条は「申込は取消しをすることができる。ただし、以下の場合にはできないものとする。①申込者が、承諾を伝える期限を確認する、もしくはその他の方法で明示的に取消はしないとの確認をしていた場合。②申込を受けた者が、その申込が取り消されないと信じる理由があり、かつ契約履行のために合理的な準備をした場合」と規定しています。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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