アナシス人事労務誌上相談「現地化をどう考えるのか?」

2023/10/18

Vol.70

M1問い:現地化を進めよと本社に言われても、なかなか難しいと感じています。そもそも現地化をどう考えれば良いでしょうか?

黒崎:アナシスでは今年6月に「ヒトの現地化」に関するアンケートを実施しました。そこから見える「現地化」についてお話したいと思います。

現地化の定義は、その進出目的によっても違ってきます。調査結果からも製造工場と貿易・販売商社では違いも多く、目指すところと現状にも差がありました。一概に「現地化とはこれだ」と決めつけるのは適切ではありません。単純にローカル人材の登用に終始するものと誤解されがちですが、それはスタート地点に過ぎません。それゆえ私がサポートする現地化プロジェクトでは、まず最初にその企業における現地化の定義から始めます。駐在員も現地社員も違うイメージを持っていることが多いのです。それでも大事なことは、ローカル人材が持つ現地独自の価値観やキャリアの展望を理解し、尊重することから始めることです。

さて、現地化の目的とはなんでしょうか。今回の調査で見られた主な目的は以下の通りでした。(%は回答率)
1)現地市場への適応性向上                       73.4%
2)現地スタッフのモチベーション向上     64.9%
3)コスト削減                                             59%
4)意思決定の迅速化                                  29.3% 他

コスト削減は既に目的の筆頭ではありません。現地トップの待遇は、日本本社の役員クラスかそれ以上となっているケースも少なくない現在、日本人の給与の低さもあいまってコスト削減にはなかなかつながらなくなってきているようです。一方で日本人のコストパフォーマンスが良いという見方もできます。しかしそうした駐在員が活躍し、ローカル人材の活躍の機会が奪われてしまうようなことがあれば2番目の目的であるモチベーションの低下を招くことになります。
現地化の定義やその目的が定まれば、次は現状とのギャップを埋める施策をとることになります。ローカルな視点とグローバルなビジョンが共存し、相互に価値を認め合う文化を築くことができるのか。本社が大事にしてきたDNA・企業文化の保持と、現地への適応のバランスがとれるのか?そんな日本本社側の問題意識の中、ローカル人材側が感じる最大の課題は権限委譲であり、一方の経営側は任せられる人材が育っていないと感じています。

ローカル向け調査結果からは、
1)権限が委譲されていない     67.3%
2)幹部教育が不足している     50.9%
3)本社との人脈がない         34.5%
等といった回答が寄せられています。この「権限委譲」に関してはよく考えなければなりません。上司と部下の間で「任せたはず」「任されてない」といったミスコミュニケーションが多数起きているからです。調査では「手段レベル」「資源レベル」「予算・目標策定レベル」の三分類で質問していますが、現場の仕事のアサインメントでは、さらに分類が必要でしょう。私どもの研修では7段階に分けて、より明確な権限委譲を考えてもらっています。上司が全てを決める「命令」から、完全な「委任」まで段階を分けて、タスクごとにその違いがあることを理解し、最適な権限委譲を目指すというものです。このワークを通して、権限委譲にはそれなりの能力が必要だということ、そしてその能力が信頼されなければ任せられず、また任せられなければその能力も磨かれないというジレンマを感じ、解決の方向性を考えてもらっています。

幹部教育不足や人脈などが現地化の課題として挙げられていますが、そもそも幹部は自分で育って、人脈を拡げていくぐらいでないと信頼されにくいもの。このように、経営側もローカル側もどっちもどっちの問題が存在するのが現地化の壁だと考えられます。さらに前回のこのコラムで書いたガバナンス問題があります。経営側は現地化後のガバナンス体制へ不安を持ちがちなのです。
今回の調査で回答してもらったローカル人材は、既にそれなりの権限委譲をされている方々です。その彼らの三分の一が問題にしているのは「駐在員や本社に現地化への本気の意図を感じない」というものでした。本社を巻き込んだ現地化の議論が必要だと思われます。
そしてまず出来ることから始める。任せられる人材を見いだし、仕事を任せ、育つ機会を与える。日本本社との関係性もつくらせる。最後は経営者の「腹のくくり」も必要です。やるべきことは沢山ありますが、本来の目的に戻って推進していかれることをお勧めします。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。10月から7回に渡って、現地化をテーマのウェビナーを開催中。


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