アナシス人事労務誌上相談「OJTとは「教える」ことではない」

2023/11/15

Vol.71

M1問い:OJTがうまくいきません。教える時間もとれないし、教えても辞めていくのでモチベーションがあがりません。どう考えれば良いでしょうか?

黒崎:たとえ人が辞めていくとしても、人が育たない組織は魅力が薄くなります。ここは長期展望にたって実行していかねばなりません。人材育成では、仕事を通して人が育つことがその中心だと考えています。On the job trainingが基本。しかしそのOJTとは教えることではありません。あえてそう言い切るのは、「教える」ことが「伝える」ことだと勘違いしている方も多いからです。「教える」の本来の意味は、「知っていることを相手に告げ知らせる」だけでなく、「知識・スキルなどを相手に身につけさせるよう導く」というものを含んでいます。あるいは「ものの本質を相手に悟らせて導く」と、さらに深い意味もあります。
OJTには3つのレベルがあると考えます。
1)基礎指導レベル
基本的な知識・技術レベルでマニュアル化されるもの。いわゆる「教える=伝える」レベルで、そして実践させる段階です。
2)成長支援レベル
従業員が自律的に業務を行えるようにコーチングするもの。
彼らの経験学習サイクルをうまく回せるようにサポートするもので、本来のOJTはここにあったと思います。「教えない教え方」と呼ぶものもこのレベルです。
3)共創・協働レベル
上司も未知の課題には、互いの知恵を活かして共に最適解を見つける必要があります。いわばコラボレーションレベル。学習する組織の段階で、心理的安全性も担保されるべきでしょう。

これら3つのレベルを考えれば、もはや「教える」ではなく、それゆえOJTとは教えることではないと言い切っておきたいのです。
昨今では日本のOJTは崩壊した、という専門家も出てきております。世代間価値観のズレ・業務の高度化・DXの進展・変化スピードの加速・働き方改革など、従来型のOJTがうまく行かなくなる背景は確かにあります。中国・香港でも同様の問題はあるでしょう。OJTの欠点を再認識し、新たなOJT体系を構築していく必要を感じます。
一般的なOJTの欠点を以下に並べます。
1.指導・育成効果のばらつき
2.計画性・体系化の不足
3.上司(トレーナー)の負担増
4.効果測定の難しさ
5.新しい知識・技術を取り入れる難しさ
6.過去の成功体験に囚われるリスク
7.時間の確保の難しさ など

場当たりになりがちであり、上司の力量が問われがちであることは確かです。しかも世の中の変化に対応していくにはOJTだけでは無理でしょう。それゆえ人材育成体系そのものの再構築がまず問われます。そこでは上にあげた課題を克服する対応策を考えていかねばなりません。
しかし「時間が無い」は上司の言い訳です。人材育成は職務。指導することでまた、上司そのものが育っていきます。この上司達を支援出来る環境を組織は持つ必要があります。
これらOJTの課題を克服していく考え方をいくつか提示します。
1)人材育成体系を構築する
2)体系的なOJTカリキュラムの構築
3)上司の育成と支援
4)1on1やフィードバック機会の促進
5)経営層の理解と協力の確保
6)OJT以外の学習手法の導入 など

が挙げられます。要は育成体系全体とOJT制度の再構築・上司およびOJT対象者へのサポート強化です。
冒頭、人は仕事で育つと書きました。どんな職務でも育つ人もおりますが、育ちやすい職務というものがあります。それは2軸で考えられます。一つの軸はその人にとって新しい知識やスキルが必要なもの。もう一つは同じ職務でも権限委譲のレベルが高いことです。その職務のアサインメントが、体系化された中で意図と意志をもって上司からされたとしたら、人はどんどん育つでしょう。OJTの中心は、この育つ職務のアサインメントにあります。
上司側の育成とは、このアサインメントスキルを向上させることがまず挙げられます。日系企業では権限の与え方があまり上手で無いことが多く、現地スタッフからは文句が出やすいところです。しかし任せるには任せるだけの能力とスタンスが必要で、上司側はそこのジレンマに悩んでいます。職務を分解し、できるところから任せていくことになるでしょう。
成長する職務を割り当て、その達成を支援し、日々フィードバックし、きちんと評価する。そしてその職務は個人が希望するキャリアパスを尊重し、かつ組織の未来図の中からバックキャスティングされたもの。OJTとは、そういうものだと考えます。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。各種研修もオーダーメイドで実施中。


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