アナシス人事労務誌上相談「リスキリングとは何か?」

2024/02/28

Vol.74

240216 YK問い:随分前になりますが、岸田首相がリスキリングを支援すると唱えました。そもそもリスキリングとは何でしょう?香港・中国でも必要ですか?

黒崎:Re-skillingと英語で書けば想像が付くかも知れません。経済産業省の定義では「新しい職業(職務)に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する⁄させること」とされています(括弧は筆者挿入)。

そもそもは日本の賃上げの流れを維持するための能力向上が意図されていました。「学び直し」とも訳されますが、不正確だと思われます。時代の変化が著しい中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)などは世界からも遅れていると言われる日本。テクノロジーの進化で労働の自動化が加速し、雇用が失われる技術的失業を防ぐという観点では、ChatGPTなどのAIが急速に進化した今、かなり現実的な危機となってきたのではないでしょうか。

メンバーシップ型といわれる日本にはこれまで人事異動もOJTもあり、「新しい知識やスキルをつけさせる教育」ということにある意味慣れていたために、どうも本格的な取組にあまり一般的になってなかったとも思えます。

先進事例としては米国AT-Tがよく取り上げられています。2020年までに10億ドルかけて10万人のリスキリングを実施。社内技術職の80%以上が社内異動によって充足し、離職率も低下とのこと。IT人材不足だったという背景もあるかもしれませんが、Job型で雇用流動性も日本より高い米国で大手企業がリスキリングに取り組んでいたことは、香港・中国でも注目すべきと考えています。

ビジネス環境が激変するなかで、そこへ適応していくためには戦略も変革を余儀なくされます。戦略が変われば当然人事戦略も変わるわけで、このリスキリングが語られるわけです。これまでのスキルでは対応しきれなくなったとき、現在の従業員たちを育成するのか、入れ替えるのか。解雇が容易な国々では入れ替えるという発想もあるのかも知れませんが、中国・香港で経営する我々はどう考えればいいのでしょうか。

香港はデジタル競争力ランキング世界10位、中国19位日本は32位です(「IMD World Digital Competitiveness Ranking 2023」より)。香港は2021年に2位にまでなったのですが、その後落ちています。それでも日本より上の中国・香港で、日系企業のDXは進んでいるのでしょうか。その環境が活かされているのでしょうか。

2年前からこの話題を香港で話してきましたが、今だ「アップスキリング」への感心の方が高い気がしています。例えば営業職がITエンジニアになるのは「リスキリング」で、経理担当者が経理マネジャーになったり、財務分析のためのITツールを学ぶといったことは「アップスキリング」です。確かに当地では後者の方が現実的なのかもしれません。

しかしもう一歩先を考えるのがリスキリングなのでしょう。スキルを持つ人材を外から採用するという手段もあります。しかしそうした人材の採用はますます困難となっていくとき、経営として環境変化にどう手を打つのか、ということが問われているわけです。そして長年貢献してきた人材が、市場から取り残されていっても良いのかと問い直すことも経営には求められるでしょう。進出から20年30年と経った多くの日系現地法人では、シニア人材の活用・活躍とサクセッサー問題がテーマのひとつ。そこでもこのリスキリングが検討されると思います。

AIどころか、いまだパソコンを活用できないスタッフが存在する企業もあります。残念ながら期間を決めて育成しても能力が伸びないのであれば、入れ替えも必要となるでしょう。時代の変化に対応できないことの危機感を共有しなければなりません。

実際には「スキルの可視化」や教育コンテンツの手配などといった具体策が求められます。まずはこの言葉をトップメンバー達と話し合っていくことから始めるのはいかがでしょうか。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。各種研修もオーダーメイドで実施中。


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