目から鱗の中国法律事情 「中国で、一つの事例に法律が競合する場合③」

2024/04/03

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.91 中国で、一つの事例に法律が競合する場合 その3

本シリーズでは、中国では法律の適用順序が明確に決まってはおらず、「法律通り」のはずなのに全く異なる結論が出ることがあるという話を、事例を用いてしてきました。

総括
その見てきた事例は以下の通りでした。
[事例]AがBから家を買い、その際にBは「間もなく隣接する道路の拡張工事があり、庭が少し削られるが立ち退く必要はない」と説明していました。Aは鍵を受け取り、その家での居住を開始しました。ただ、家の所有権移転登記はまだ済ませていませんでした。3カ月後、隣接する道路の拡張工事が始まりましたが、当初の計画から変更があったのか、結果としてAは当該家から立ち退かざるを得なくなりました。そこでAは当該家の売買契約の解除を求め提訴しました。

この事例で第一審では、Aに契約法(中国語原文は「合同法」)第94条が適用され、契約解除が認められました。しかし、第二審では契約法第142条が適用され、契約解除は認められませんでした。
逆に言うと、中国で法律通りの結論であると自信を持っていても、別の条文を用いれば、それとは異なる結論となり、しかもその異なる結論の方が裁判結果となる可能性があるということです。現在、この契約法は廃止され、代わって「民法典」という法律が施行されています。しかし、契約法第94条と類似する規定は、民法典第563条にも規定されています。28086391_m

このように現在は契約法は廃止となっているものの、この事例が示す重要なポイントは、中国では、法律通りで問題ないと考えている結論があったとしても、法律の適用順序が明確に定まっていないために、他の条文を参照した別の結論が裁判結果となることがあるということです。中国で法実務に携わる場合には、このような点にも注意をする必要があります。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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