中国の経済成長の岐路「中所得国の罠」Borderless Management & Investment Ltd.

2015/11/09

2015年10月19日に発表された中国の7月から9月(第三四半期)の実質国内総生産(GDP)は年率換算で6.9%だった。これは6年半ぶりの低水準である。我が日本国の2015年度の経済成長率は1.04%。中国のGDP規模は世界第二位で日本は第三位、そんな大型経済圏が6%以上も拡大するというのはやはりすごい。ところがこれが今世界の大きな懸念材料となっていると言われている。
中国政府は年率7%の経済成長を目標として掲げている。年率7%の成長を10年続ければ国民の所得は倍になる、中国版所得倍増計画だ。6.9%はその目標にわずかに達していないということである。
中国の経済統計は国家統計局という役所が算出しているが、そもそもその数字が本当に正確なものであるかどうかはかなり怪しいということは以前より言われていた。広大な中
国の27の省から夥しい数の市、県、鎮に至る行政単位から上がってきた報告をまとめて統計しているという話だが、その正確性がどこまで担保されているかを測ることは外国や国際
機関にはできない。
各行政単位の長にとって中央政府が掲げた年率7%とあまりにかけ離れた数字を出すことはなかなか容易なことでもないだろう。とにかくそうして集まった数値が全体の目標に極め
て近いが下回っていることになるわけだ。そんなブラックボックスにある中国の経済指標の中でも海外から裏取りが可能なものがある。それが中国と海外との取引額をあらわす貿易
統計である。
中国から輸出されたものは海外のどこかの国に輸入され、中国が輸入したものはどこかの国が輸出したものなので中国と取引のある各国の数字の合計と照合することができるのだ。
その確かな数字で見ると9月の中国の輸入は前年同月比で20%減、1月から9月の累計でも15%という大幅な減少を見せている。ちなみに輸出は9月前年同月比で5.3%減。人件費の高騰によって世界一を誇る輸出の競争力が徐々に失われてゆくことも大きな問題ではあるが、アメリカに次いで2位の輸入が2桁減となると相手国に与える影響は大きい。特に中国への輸出・輸入の最大の相手であるEUはかなり煽りを受けるだろう。
ギリシャを始めとする南欧諸国の財政問題でガタガタしたあと、ほぼ孤軍奮闘欧州を牽引してきたドイツがフォルクスワーゲンの排ガス規制不正回避スキャンダルの渦中にある。
中国、欧州発で世界経済が変調を来すならば12月にも、と観測されている米ドルの利上げも実行されるのかどうか。
中国の通貨である人民元の動きもおおいに気になるところである。同じ第3四半期に中国は2,290億ドル(約27兆5,000億円)の為替介入を実施した。中国の中央銀行である中国人民銀行は8月11日から3日連続で人民元の切り下げを実施した。ところがその後その巨額の外貨準備を吐き出し、ドル売り人民元買いの介入を行って自国通貨を買い支えるとい
う奇妙な行動を採った。切り下げのあと、当局の思惑を超えて人民元が下がり過ぎたからだと言われている。
一方でアメリカは今だ人民元が過小評価されているとして、さらなる人民元高を容認するように求めている。

「中所得国の罠」
低賃金を背景に労働集約的な産業をもって経済成長を達成して中所得国(一人当たりのGDPがUSD3,000からUSD10,000の国)になったあとそこで停滞し、USD10,000以
上の高所得国になれない状態である。中所得国になるとより安価な労働力を持つ後進国の追い上げに遭う一方で、資金力のある先進国の技術開発力に追いつくことができず往往
にしてそういう状態に陥るらしい。
貿易統計が如実に表しているように中国の成長減速は顕著であるように思える。低コストを武器にして主に製造業の輸出を持って20年以上に及ぶ高度な経済成長の末に中国人
の生活水準は上がり、人件費は高騰した。そのために輸出競争力が失われてきている。
だがそれはアメリカや日本、香港、台湾、シンガポールなど様々な国が通ってきた道である。これらの国は輸出競争力を失ったあと、金融や技術立国にうまくシフトしてその上の段階である高所得国に昇華できた。中国はまさに中所得国の罠を抜けられるかどうかの岐路にさしかかっている。

玉利将彦(タマリ マサヒコ)さん玉利将彦(タマリ マサヒコ)
上海と香港を拠点に活動し、中国在住歴は18年に渡る。香港の証券取扱免許(SFC)と保険取扱免許(PIBA)を保有する資産運用アドバイザーとして、顧客のライフプランに即した投資計画の立案及び積立ファンド・保険の仲介、HSBC香港BOOM証券・中国銀行など海外の有名金融機関の口座開設・運営サポートをおこなっている。

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